最愛のビッチな妻が死んだ 第2章 初夜
「おはようございます」
「おはようごさいます」
2月19日正午、僕たちはこれから何度となく言い合う「おはよう」という挨拶をLINEで送り合って、お互いに生存確認をした。
僕が正午に「おはよう」と送ったのが、あげはにとって変に感じたらしい。
「今起きたの?」
「9時には起きて、10時まで二度寝してました」
「なんで今起きたってわかったんですか?」
「あげはさん、1時くらいに起きそうな気がした」
「あは、何時に寝たかもわかんないのに? すごい予知能力ですね」
もちろん予知能力ではなくて、僕が起きる時間と一緒だったらいいな、という希望的観測に過ぎない。
そのあと、他者と距離を詰めるのが苦手な僕に気づいていたのか、あげははこんなうれしい質問をしくれた。
「なんて、呼ばれたいですか?」
「あげはさんのお好きに」
「それは……なんと難しい」
「じゃあ下の名前の方が好きなので、あとはお任せします」
「アタシは『あげ』と呼ばれたいです」
「あげ、インプット完了です」
今後、何千回、何万回と呼び合い続けることになる『あげ』『キョウスケ』の愛称は、この日生まれた。呼び合うのはまだくすぐったいが、呼び名が決まったところで、お互いの生活の話をし合った。
寝ている場所について尋ねてみると……
「普段はリビングで寝ています」
「ニャンコと?」
「そう。2人がお腹の上、1人が左腕枕、1人が右腕枕、1人が顔の横です。全員がそのポジションにいれば、何かあっても一畳あれば生きていけるなーと思います」
ちなみにあげはは、ニャンコを「人」でカウントする。
「あったかそう」
「寝相がひどいものなので、いつも起きたら誰もいません」
あげはの寝相の悪さは、後に僕も目の当たりすることとなる。そして、だんだんとあげはは素の自分を出してきてくれた。
「すいません、ストーカーしてしまいました」
「ストーカー?」
「Twitterを少し覗いてしまったので。ほぼ初めて触りました」
「あ~、なんもないよ~」
「しゃべった感じとメールの感じとまた違った一面が見れました。たしかになんもなかったですが」
「出してるのは、一部分だけですしね」
「あげのまわりの35歳はもっと子供なので、なめてました」
「ガキではありますよ」
「アタシは、自分ではよくわかんないです。大人なので子供のフリができる、ような気がします」
「無邪気、な人間はいませんし、正直なままストレートに伝えるのが正しいとは限らないですし。仕事上や相手によっては態度やキャラを変えたりは必要だと思いますよ」
「わかってます。変える必要がない人の前での自分の話です。暇過ぎて白昼夢見てます」
「そのまま出して、嫌われるんじゃないかってときはあるけど……」
「ああ、ありますね、今です」
「同じく」
それから唐突にいまどこにいるかを尋ねられる。
「家ですか?」
「会社です」
この日僕は珍しく会社で仕事していた。あげはどこにいるのか尋ねてみる。
「自宅ですか?」
「そうですよ」
「近いような」
「会社はどこですか? すいません、聞いても近いのかわかりません。大変方向音痴なので」
「護国寺です。池袋から2駅」
「ああ、なんとなく。有楽町線、未知の世界です。乗ったことあるかな」
「確かに地下鉄乗るイメージがないですね」
「電車も苦手です。雨も太陽も苦手です」
「太陽は分かる」
僕はアトピー持ちの日光アレルギーで肌が異常に弱い。お菓子やジャンクフードを食べると、食べながら肌が露骨に荒れてしまう。
話は変わって、お互いの得意・不得意について。
「車とバイクは好きです。今持ってませんが。傘が嫌いで」
「傘や雨は僕も好きじゃない。バイク、中型とか大型とかに乗ってたんですか?」
「大型免許も持ってましたが諸事情あって、今は車の免許しかないです
「バイク、モンキーはあるよ」
「おお、いいですな」
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