最愛のビッチな妻が死んだ 第13章

前話: 最愛のビッチな妻が死んだ 第12章
次話: 最愛のビッチな妻が死んだ 第14章

交際22日目 3月10日

昼過ぎ、僕はいつもと同じく、あげはにいってきますのキスをして出社した。

「いってきます。駐車場代ありがと、必ず返します」

今まで元嫁の家に駐車場だけ借りていたのだが、ようやくやめることにして自宅近くに駐車場を借りたのだ。それで前日に、太一さんにお金を借て、その返済のことをあげはにlineで伝えたわけである。

「洗い物してたーー。あは、なんでそんな他人行儀ww」

「お金の貸し借り、特に借りるの苦手でさ」

「でも、あげも駐車場近い方がいいし、いちいち元嫁に車取りに行くって連絡するのやだったし! たまに妬いたりもするのよ。たまにね!」

「ありがと。好きなのは、あげだけだから」

「知ってるよーー。なぜならあげも好きだから」

あげはから自撮りが送られてきた。よそ行きの顔をしていて、すごくキレイだった。

一緒にいない時、あげはは寂しがる僕のために自撮りをよく送ってくれた。

そういう送られた自撮りの中には、「ガンバれ」「愛してるよ」などテキストの加工がしてあるものがたまにあった。そのうちの1つが、2年後に遺影で使われるとは思ってはいなかったが……。

「かわいく撮れてるからあげよう」

「昨日のプレイの時の?」

「そだよーー」

「めずらしくメイクしてるから……キレイだよ」

「マゾに、現在が肝心だと言われる」

「イラっとするな、保存したけど」

「今夜のおかずはそのストレスをぶつけた肉じゃがです」

前日にSMプレイに一緒に行って、今晩のおかずは肉じゃが。

この日は太一さんと3人で食卓を囲んだ。まだ借りた駐車場には停めれなかったので、夜中、3人で前の家に車を停めに行った。

ふと、家に誰もいないなと思ったが、いつも通りの火曜日だった。

交際23日目 3月11日

東日本大震災の日だが、この日は東京の一角にある我が家にとっても、別のあまり良くない出来事が起きる。

午前中に、前の嫁の妹さんから電話があった。

離婚して約1ヶ月、元嫁との家族とはほとんど連絡を取っていないため嫌な予感がしたが、あげはと一緒の時間が大事な僕は、いつも通りいってきますのキスをしてから、午後の出社の際に折り返した。

「お久しぶりです。どうかしましたか?」

「お姉ちゃんが……お姉ちゃんが!」

「はい? どうしたんですか?」

「亡くなりました」

前の嫁が午前中に電話をもらった時に交通事故に遭い、亡くなったという。

そう告げられても現実感がなかったが、とにかくあげはと太一さんに連絡。会社にも連絡して指定された病院へと向かった。

あげはと電話で話す。

「いってらっしゃい。共輔、大丈夫? あげ、家にいるから」

「大丈夫ではないけれど、なんとかするから」

「アタシ付き添えないから、行ったら変だし。なんとかって怖い」

あげはは僕の異変を心配し、また嫉妬もしていたのだと思う。あとで聞くと「自分が呪い殺した」と信じている時期もあった。

交際期間を含めれば10年近く一緒にいた前嫁の死に、僕は電話口でもわかるくらい、涙していた。

「今年はあげと出会った以外にロクなことがないな」

「アタシを置いて追っかけたりしないでね。怖いよ」

「それはないから、安心して」

「息ができない」

「落ち着いて。あげのこと好きだから、ちゃんと帰るから」

「共輔が泣くの辛いよ」

「ゴメンね、ちょっとだけ泣くよ」

「うん。共輔が悲しいとあげも悲しい。ゴメン、共輔に帰ってきてもらうわけにいかないから、太一呼ぶよ。薬持ってきてもらう」

病院で対面していた僕の代わりに、実家へと帰っていた太一さんがあげはのそばにいてくれた。

「アタシは生きてるから」

「いったん会社戻ってから、帰るよ」

「アタシが何をしていたら助かる?」

「元気にしてて」

「わかった。あのね、あげは死なないしずっとそばにいさせてね」

「ありがとう」

「ううん」

自分がヒドくショックを受けているのは事実だった。

とはいえ不謹慎で申し訳ないが、目の前にいる前嫁のことを思い泣きながらも、あげはの心配をしていた。

僕の前嫁の死で心を揺らして、具合が悪くなるのではないかと。

「あげ、ビックリさせてゴメンね」

「ううん。共輔は何も悪くないよ」

「会社で仕事の引き継ぎしたから帰るよ」

「お疲れ様。待ってるね。安定剤飲んで横になってる。寝てても起こして」

実際、記憶が飛び飛びで今振り返っても、病院からどう出て、どうやって会社に行って、帰宅したのか、あんまり覚えてはいない。妹さんが涙を拭くハンカチをくれたことは覚えている。

あげはからLINEがきた。

「愛しているよ」

「ありがと」

僕たちの関係には何も変わらない、はずだった。

眠れない僕に付き合って、夜中散歩をした。通った交番の前にある、なんの変哲もない看板。

「本日の死傷者1」。

僕は立っていられず、崩れ落ちてしまった。

「共輔、あの数字見てショックを受けてるんでしょ」

「ゴメン。なんかショックで」

「共輔は今、あげはといるのよ!」

あげはを初めて本気で怒らせてしまった。僕はただオロオロと、呆然とするしかなかった。あんなに具合が悪くなった時はフォローすると約束したのに。

前嫁の通夜は14日と15日に決まった。

続きのストーリーはこちら!

最愛のビッチな妻が死んだ 第14章

著者のKitahara Kyousukeさんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。