最愛のビッチな妻が死んだ 第17章 太一さんへ

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前編: 最愛のビッチな妻が死んだ 第16章 8月10日まで
後編: 最愛のビッチな妻が死んだ 第18章

この1ヶ月間、僕はソフトに死んでいた。


 自分に「長い悪夢を観てるだけだ」と言い聞かせ出した時、危険を感じた。


眠剤と抗うつ剤の量は増え続け、毎日わざとオーバードーズしている。


クスリとドラッグを一緒に、ネットに公開されている規定の致死量まで…あげはのいない世界に慣れられない僕に対して、ただ、ひたすらに死をあげたかった。


「奥さんの分も生きろよ」


「あなたが強く生きないとあげはの死が無駄死になってしまう」


「まだやり残したことがあるから、キョウスケくんは生かされてる」


どうでもよかった。あげはのいないこの世に未練を見出せなかった。


「退屈だな」


「今日も晴れてるね」


「頭が忙しくて仕事の頭に入らない。文字に酔ってが文字が打てない」


小さな鏡に話しかけ続けるのに飽きると1人、ドラッグに耽った。


北原家の家訓であった「1人でドラッグをやらない。やるなら一緒に楽しむ」の掟を破り、僕はあげはに怒られたかった。


「ズルい!1人で!」


一言くれれば終わるのに。変われるきっかけがなかった。一緒に落ちる幸福すら感じられない人生に意味が見出せないどんどん侵食され、犯されていく。


本当に起きてる間中、僕は何かにキマっていた。一日中、ゆらゆら帝国の同じアルバムを聴いているだけの日、ハッパと共にフィッシュマンズやコーネリスだけ聴いてる週もあった。


マンチー状態でメシを食べても全部吐いてしまうので、冷蔵庫には野菜ジュースとウィダーゼリーだけ完備して一週間を過ごす。


「今日は取材に行かねば」


覚醒剤を重ね過ぎて眠れないことに焦って致死量スレスレまで眠剤を飲む朝、眠剤が全く抜けず覚醒剤で強引に身体を起こして取材に向かう昼、抗うつ剤の飲み過ぎでロレツが回らない夜。


周りに迷惑をかけたくないという気持ちもあるにはあるのだが、かつての生活に合わせようとするほど、離人感とうまくやれてない感で凹むの繰り返し。生活と自意識の間で摩擦しまくって、また落ちるの繰り返し。


昔なら、こんな時、「誰かに」そばにいてほしかった。今はあげはにそばいてほしいだけだ。


瞳孔が開いているため、蛍光灯が眩しい。太陽は眩し過ぎる。毎日シラフでもキマリ続けている感じで音や無音状態や声や匂いに過剰に反応する、抗うつ剤が切れると衝動的な死への欲求で何度も電車に飛び込みそうになる…こんな感じの世界に生きてきたあげはに感心しながら、尊敬の念と気の毒にとまた思い出して落ちる。

みんなの読んで良かった!