最愛のビッチな妻が死んだ 第18章
言葉は時に武器になり人を傷付ける。
先日、太一さんのお供で行ったディスコで会ったオバちゃんに「アンタ相当なイケメンだね」と話しかけられた。その次に発した言葉は場違いなものだった。
「アンタ、影がすごいね。闇を抱えてるね」
そんなことは三流の占い師でも言える。
「何があったかオバちゃんに言ってみ」
一言だけ返した。
「妻が亡くなりました」
少しの間があり、オバちゃんはこう言った。
「私も似たような経験あるよ。アンタが強く生きなきゃ、奥さんムダ死にじゃないか!」
「奥さんの分まで生きろ!」
「世界にはもっと不幸な人いっぱいいるよ!」
「悲劇のヒロインぶってるんじゃない!」
親身になって説教をしてくれるのはありがたいが、僕は不幸なのではない。つい最近まで絶頂幸福だっただけだ。こんな場所でふと暗い顔をしていた僕が悪いのだろう。
ただ、僕は地球のどこかにいる顔も知らない誰かではないし、不幸な人も僕ではない。だいたい、悲劇のヒーローぶるのは僕も大嫌いだ。僕は特別な人間じゃないし、特別な人間などいやしない。あげはが僕の中で特別だっただけで、僕はごくごく平凡な人間だ。
「アンタは生かされてるんだよ!頑張れ!一緒に頑張ろう!」
最後は握手をハグをされた。酒と安い香水の香り。あの日以来、匂いに過敏になっている僕にはキツかった。あのハコに行けば親切なオバちゃんとはまた会えるかもしれない。
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交際28日目 3月16日
「いってらっしゃーーい」
「行ってきます」
誰かの言葉より、あげはとのキスや何気ない言葉の方が何万倍も僕にとってはありがたい。
出勤途中にまたネタが浮かばす、あげはとLINEで相談していた。芸能人が集まる渋谷のバーを教えてくれた。
「定期的に飲み行くか~。あんまりあげは行きたくない場所なんだよね?
「…ヤッた男と会ったらやな気持ちになるかなと。共輔が。でも、あげは何とも思わんよ」
「ちょっと考える」
「こないだはも『〇〇いるからこない?』って電話あったよ。付き合い出す直前」
〇〇は僕でも知っているアーティストだった。
「クスリで繋がってた人はしょせんクスリで繋がってるだけ。切れても問題ないし、あげからしか買ってないワケじゃないし、そもそも最近悪いことしてないし、それが仕事になって2人が幸せなら、昔の知人は知ったこっちゃない。とあげは思っている」
「帰って話すよ。ありがとう」
「だって何かないと連絡来ないし連絡しないし、損得感情で付き合って、悪いことして罪の共有して吊り橋効果?ではないけど仲間になった気がしてるけど、効きが終わったらもうサヨナラよ。それを売るのって薄情?」
すごく危険なヤマを持ちかけながら、日常を思い起こさせるのがあげはのいいところだ。
「と、夜御飯と明日の朝御飯のリクエスト募集中。ヒントだけでもよいよ。麺が食いたいとか、米とか、カボチャとか、中華とか」
「あげを少しでも危険に晒すのがイヤなだけだよ。夜ごはん、考える」
「うん」
あげはから「今夜、プレイが入る」と連絡がきた。
「共輔と逢ってから、仕事に困らなくなったな」
「あげチン説」
「切羽詰まらない程度に働いて、そこそこの贅沢をしながら、いろんな物やことや、とにかく色々共有しよう」
「そだね。まだ出会ったばかりだし。一緒に見たいものやしたいこと、いっぱいあるから、いっぱい一緒にしよう」
「そうだね、まだ一ヶ月経ってない。驚きだ」
プレイは渋谷で夕方には終わるそうだった。
「渋谷で合流する?」
「そうしよか」
「夫婦茶碗とお椀選び、付き合う? あげのいいこと」
僕たちはSMでお金を得た帰り、よく東急ハンズで食器を買った。同じ型を4枚づつ。僕たちと太一さん、来客者用に。
渋谷の街はそろそろ、桜が咲く気配を見せていた。
「あ、お花見」
「行こう」
「ど定番ですが、おいしいサンドイッチでも買って中目黒でも散歩しますか」
「周りに気にせず好きなカッコして、周りがうらやむぐらい、恋愛しよ」
「嗚呼素敵。愛している。とても」
「僕の方が好きだよ」
「負けず嫌いめ」
「口ベタだから伝えるのヘタだから、時々不安になる」
「伝わるよ。大事にされている」
「そか。よかった」
あげはから阿部真央の『伝えたいこと』の歌詞がくる。
「でも、たまには言って欲しい」
「わかった。この曲、こないだ聞いてたヤツ?」
「いつかな。嗚呼、ヤスシがギター弾いてあげ歌った」
続いて、同じく阿部真央で『いつの日も』が送られてきた。
「最近聞いたような」
「エンドレスリピートで流してた」
「CHARAは覚えてるな」
「CHARAはコレだね。『私はかわいい人と呼ばれたい』」
「ああ、そうだ。エンドレスリピートのヤツ」
「うん。愛するということが被害妄想になってたから聴いてた」
僕たちは法律やあらゆることに、お互いに加害者であり、被害者であるが立派な共犯者なので気にもしていなかった。
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