地図の無い洞窟で宝を見つけた
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23歳の頃、全国にCDが流通され、ワンマンライブをすれば200人の動員。順風満帆と思われたそのバンドは、ボーカリストが喉を壊し、解散を余儀無くされた。
もちろん、そのボーカリストとはこの僕だ。
1ヶ月間程、身体が動かなくなってしまい、脳内はネガティブな思考で埋め尽くされた。
発声が悪い事も、歌が下手なことも、自分でよく解っていた。だから、ボイストレーニングに通っていたんだ。それなのに、一向に改善されなかった。
生き甲斐であるバンドを、自分のせいで解散させてしまった事が悔しくて、自決しようとした事もあった。
友達が必死に止めてくれたお陰で、僕は今でも生きています。
僕は、知人の紹介で営業の会社に就職をする事になった。
昔のような元気さは無いものの、それなりに仕事を頑張り、それなりに契約を取り、それなりに昇格もした。
だけど、全く楽しくない。
家で音楽番組を観ながらボケーっとしていると、とある四人組ダンスボーカルユニットがお茶の間を沸かしていた。
「なんで踊ってるのにこんな上手に歌えるんだろう」
「自分なんてレコーディングでも歌えないのに」
「……カッコいいな、羨ましいな……」
悔しくて、涙がボロボロと溢れ出てきた。
次の日から僕は、仕事が終わると、深夜2時まで毎晩カラオケに行った。5時までいた事もある。
何をしていたのかというと、発声の改善をする為、自分に対してボイストレーニングをしていたのだ。
1年間以上、毎晩続けた。
それでも……
「なんで高い声出ないんだろ」
「僕の喉は病気なのかな」
「もう……疲れたな……」
なんだか、もうどうでもよくなってしまった。こんなに駄目な自分が逆に面白くなる程だ。
気が触れてしまったのだろうか、笑いが込み上げてくる。 テンションがおかしくなり、「たまにはふざけて歌ってみるか」と考え、選曲したのはモーニ○○娘。の曲だ。
「もういい……どうせ高い声なんて出せないんだ。」
「思いきり叫んで歌ってやる」
「喉がまた壊れたら壊れただ!!」
開き直りというのでしょうか。何も考えずに絶叫をしてみました。
「oh no hold on me a~◇△★○★」
……あれ?えっ?今……原曲キーで歌えた??
驚いた。これには驚いた。二足歩行をしている猫さんに出くわすよりも強い驚きだ。
出た、高い声が出た。何年も出せなかった音域が、今確かに出たのだ。
何かの間違いかもしれない。もう一度歌ってみよう。
「oh no hold on me a~◇△★○★」
やはり、出る。おい!なんだこれは!出てるぞ!!高い声が出るじゃないか!!!!
その日、声を出す感覚を忘れるのが怖くて、朝までずーっとモーニ○○娘。を歌い続けた。
仕事終わりの疲れも、これから始まる仕事もどうでいい。
全身で喜びを感じながら、僕はひたすら声を出し続けた。
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