愛猫【あいびょう】、ウゲゲ天野【あまの】と過ごした十年間の物語 (10)

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第九章 「ウゲゲ天野」きみに会えて、幸せだったよ

 ウゲゲが亡くなって、二日後。
 家族四人で、Mさんから教えていただいた、青梅市にあるペット霊園に行き、ウゲゲを埋葬してもらうことにした。
 管理人さんに、もう絶版になっていて、私の手元にも三冊しか残っていない 「ボクの名前は『ウゲゲ天野』」の本を、一冊、火葬の時に一緒に入れて欲しいと頼んだ。
 事情を説明すると、管理人さんは、
「そのように大切な本なら、燃【も】やしてしまうより、こちらの事務所に置いて、来てくださる皆さんに、読んでもらう方が、猫ちゃんにとって、いい供養になるのではないでしょうか」
 と提案してくださった。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
 私は、管理人さんの親切なお気持ちにお礼を言い、事務所に置いてもらうことにした。
 翌日。
 私は、夫と一緒に、A動物病院の院長先生にお礼に行った。
 今までの感謝の気持ちを綴った手紙と、「ボクの名前は『ウゲゲ天野』」の本と、「輝く笑顔のために」の本を一緒に渡した。
 院長先生は、涙を浮かべてくださり、二冊の本は、病院の待合室に置きたいとおっしゃった。
 数日後、お花屋さんから、我が家に、素敵なお花が届いた。
 A動物病院の院長先生からであった。
 メッセージカードが添【そ】えられていて、
「ウゲちゃん、よく頑張ったね。えらかったね。ウゲちゃんがいるお家は、みんなが幸せになったね。宮下さんのお家は、お母さんが本も出せて良かったね……」
 読んでいくうちに、涙があふれてきた。

 四月の始め頃のこと。
 Mさんが、私が以前からお願いしていた、ウゲゲの昔の写真を数枚持って来てくださった。
 それらの写真は、子猫の時のウゲゲが、兄弟と一緒に写っている愛らしい写真が多かった。見ているうちに、こちらまで幸せにしてくれる写真だった。
 兄弟たちは、それぞれ、親類や知り合いの家で元気に暮らしたらしい。
 その中の一枚の写真を見て、胸がいっぱいになってしまった。
 それは、ウゲゲの二歳の誕生日を、M【エム】さんの御家族の方が集まり、お祝いしてくれている写真だった。
 ソファーに腰掛けた御家族と、その真ん中に、おすまし顔のウゲゲ。二本のローソクを立てた美味しそうなケーキ。
 M【エム】さんの御家族の「誕生日おめでとう!」の声まで聞こえてきそうな、ハッピーな写真だった。
(ウゲゲは、こんなにも大切に愛されて育ててもらったんだね……。手離すときは、どんなに淋しかったことだろう)
 改めて、Mさんに感謝の気持ちがこみあげて来た。

 ウゲゲが天国にいってしまって、ひと月【つき】過ぎた時だった。
 私は、毎日新聞の「女の気持ち」というコーナーに、ウゲゲへの感謝の気持ちを込めて投稿し、掲載された。「ウゲちゃん」というタイトルだった。
「こんなにも可愛い猫がいたんですよ」と多【おお】くの人に知ってもらいたい」という想いもあった。
 おかげ様で、友人、知人、親類、なつかしい恩師【おんし】……。たくさんの人から電話や手紙をもらった。
 また、見ず知らずの読者の方から、新聞社を通して、お手紙をいただいた。
「きっと、天国のウゲゲも喜んでくれてるよ」
  夫がそう言ってくれた。
 しかし、その頃の私は、ウゲゲのいない現実に押【お】しつぶされそうな毎日を送っていた。
 ペットロスに陥っていたのかもしれない。

 ペットショップの猫ちゃんの前を通っただけで、胸が苦しくなった。
 ウゲゲが大好きだったキャットフードを見ただけで、悲しくなった。
 お刺身のコーナーに行った時も、
「ウゲちゃんの大好きなお刺身……いっぱい、いっぱい、食べさせてあげたかったな」
 と涙がこぼれた。
「もっと、やってあげられることが、たくさんあったのではないか」
 と悔やんだ。
「ウゲゲ天野の家」と、書かれた犬小屋を夢中で掃除した。
 ウゲゲが、いつか戻って来てくれるようで……。
 緑色の屋根も、白い壁も、丁寧に拭いた。
 犬小屋の中は、枯れ葉【かれは】を取り除き、毛布を敷きつめた。
 車でドライブに出かけても、
「ウゲゲが、待っているから早く帰らなきゃね」……と、わかっているのに、口【くち】にしてしまう。
 ウゲゲの可愛い姿が、幻のように、浮かんでは消えていく。
 しばらくの間、思い出しては泣き、泣いてはまた思い出す……そんな、日々を送っていた。
 そんな時だった。
 ウゲゲの前の飼い主さんのMさんに、数ヶ月【げつ】振【ぶ】りにお会いした。
「あの子は、宮下さんのお家と、そして何より、宮下さんの御家族が、本当に本当に大好きな子でした」
 Mさんから、宝物のような言葉を頂いた。
 涙が流れ、私の心の中に、ある感情が涌【わ】きおこった。
(ウゲゲは、この家を、この家族を、ずっと、ずーっと、幸せにするために、この家に来てくれた……亡くなってしまった後も、泣いてばかりいたら、ウゲゲが心配する。笑顔で生きていかなきゃ、ウゲゲが悲しむ……)
 たくさん、涙を流していた、私の心の中の霧【きり】が晴れていくような瞬間【しゅんかん】だった。

 今でも、涙がこぼれてしまうことは時々あるが、ウゲゲの思い出を、笑いながら語れるようにもなって来た。

 ウゲゲが安心してくれるように、前を向いて一生懸命生きていきたい。
 ウゲゲが教えてくれたように、相手の気持ちに寄【よ】り添【そ】い、優しい想いを忘れずにいたい。
 そして、自分の気持ちにも、素直に生きていきたい。
 ウゲゲも、きっと天国で、見守ってくれていることだろう。


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