4.出国日当日

前話: 3.海外逃亡の準備
次話: 5.フィリピンに到着

2017年10月30日、その日は関東地方は雨だった。


いくつか自分でマッサージのお店をやっていたけど、その内のいくつか、そして自分が住んでいたアパートは、退去の手続きをしなかった。


立つ鳥後を濁さずと言うけど、私は濁しに濁しまくっていた。

借りていた物件の退去手続きをしなかったのは、面倒だったからじゃない。

退去するのだってカネがかかるわけで、そのカネを持ち合わせていなかったからだ。

住んでいたアパートだってペット可の物件だったけど、ペットを飼うという事を事前に伝えていない。

明らかな契約違反で、その違約金やクリーニング代なんて請求されたら、20〜30万円で収まるとも思えない。

それらを清算するカネを持ち合わせていなかった。


だいたいフィリピンまでの渡航費だって、犬3頭がけっこうな金額になって、人間様より高い飛行機代だったし、その渡航費用も新規にiPhoneを契約して売り捌くマネをして作っていた。

そんだけ追い込まれていなければ、海外逃亡なんてしやしない。


海外逃亡せずに日本にいてもカネがまわらなかった。

いくつかやってたお店は元従業員達の嫌がらせでズタボロになっていた。

カネが無いのに、ちゃんと清算なんて出来なかった。

日本という国から私は消滅するのだから死んだ人と同じ。

死んだ人からカネの回収は出来ないわけで…


などと自分に都合のいい解釈をしながら、雨の中、車に荷物を積み込んで空港へと出発した。


残念ながら、フィリピンに送る大きな荷物は、時間的に間に合わず、私が日本にいる間に運送屋に回収してもらえなかった。


玄関前に置いていくので、回収するようにと運送会社に頼んで、それがどうなるかを見届けずに家を出た。

それほどに時間的な余裕もなく、最後の家を後にした。


海外逃亡当日だと言うのに、飛行場に行くまでのドライブ中は爽快だった。

全ての責任から逃れて、ザマーミロという気分だった。

何に対してザマーミロなのかは分からないけど、まんまと逃げてやったぜという気分だったのだと思う。


でも、実際には私が日本から消えても、嬉しいと思う人がいても、困るという人は誰もいない。

借りていた物件だって、保証会社がキチンと家主に取りっぱぐれた家賃を支払ってくれる。

借金だって、取りこぼしがあるのは想定内で、だからこそ高い金利を取っている。

私が日本で生きて行くのに、名義を様々な場所でツカエナくなるというだけで、困るのは私自身。

私が私の責任を全うしなくても誰も困ったりしない。

ザマーミロは、そのまんま私が私に言っている言葉でしかない。


犬の預け入れがあるので出発の5時間前に成田空港に到着した。

飛行場のパーキングに停めたクルマは今も置いたままなのか分からないが乗り捨てた。


あと5時間で私の日本での寿命はストップする。

あと4時間、3時間と、日本の寿命はカウントダウンを進めるけど、誰も私にメールやLINEなどメッセージを寄越してはこない。


本当に死んでしまうわけでは無いけど、永遠に2度と会えなくなるかもしれないのに、お見送りはおろか、メッセージも無いなんて…


ロクに後片付けもせずに日本を飛び立つクソみたいな人間の私には、別れを惜しんでくれる人の1人もいない。

生前葬をやってみたけど、誰も出席者がいないのを目の当たりにした気分だ。


まぁいい、いやこれでいい。

誰かに助けを求めなくても、誰かがチカラを貸してくれる様な人間性なら、そもそも日本から脱出する事態になんてなりはしない。

そこまでじゃないにしても、私の最後の顔を見てやろうと拝みに来るほど悲しく寂しい気持ちを感じている人間が誰もいないということ。

こういう現実を実際に見て受けとめないと、薄々は分かっていても、自分のダメさ加減をそこまで認識できない。


今のクソみたいな自分と、私に関わってきた薄情な人達とも、豊かそうに見えてストレスに溢れてる歪んだ日本という国とも、私の過去の履歴全てにオサラバだ。


秋から冬へと季節を変える長雨に打たれて感傷的になっても、涙の1粒も出てこなかった。


なぜなら、全てをゼロに出来て、ゼロからチャレンジ出来るなんてワクワクして胸が踊っていたからだ。

絶望しかない日本を抜け出せて嬉しくて仕方ない。

誰にもサヨナラを言ってもらえなくて強がってるんじゃない。

本当は死ぬ勇気があるなら死んじゃいたい。

だけど、死ぬ勇気なんか無い。

異国の地で自分が一体どうなるんだろう? 

と、まるでマンガの主人公になった気分にさせてもらって、死んじゃうにしても、最後に好き勝手出来たと満足できる。

仮に死んでも、ネコの死に際みたいにスーっと姿を消して、私を憎らしく思っていた奴等に亡骸を見せずにすむ。


そんな気持ちで空から日本を飛び出していったのは42歳の秋だった。

続きのストーリーはこちら!

5.フィリピンに到着

著者のAkiraさんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。