5.フィリピンに到着

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飛行機を出るとモワーっとした生ぬるい空気に包まれる。

銭湯で裸になって、浴槽がある部屋に入った瞬間みたいに、人間のニオイなのかケモノニオイなのか、はたまた別のニオイなのか知らないけど、ちょっとオェってしたくなるニオイが温度と湿度の高い空気に混じって鼻から入ってくる。

素敵なレビューを書くソムリエに、この決して美味しくない空気の味を表現してもらいたいと思うほど、過去に経験した事の無い嫌な空気の味だ。


飛行機を降りて、自分の健康状態について書かれた紙を提出するのだけど、英語が全く分からなくて何も書いていない。

名前だけは書いたけど、あとは良く分からなくて記入せず、そんな何も書いていない紙を受付台に置いてスーっと逃げようとしてみた。


フィリピンに来て初めて会ったフィリピン人のオンナに呼び止められた。

何言ってるのかは全然分かんないけど、ちゃんと記入しろって事を言ってるみたいだった。


って言われても、英語だから何を書けばいいのか分かんねー…。

英語もタガログ語も分かんないから、分かんないとも伝えられない。


また書いたフリして、台の上に紙を置いてスーっと逃げようとしてみる。

でも、他の乗客は既にここを通過していて、女性スタッフさんは私が書き終わるのを待っていたから、白紙の答案用紙じゃスグにバレてしまい、またもや呼び止められる。


何か言ってるけど、何を言ってるのか分からないから、もうニヤニヤしてアホのフリをするしか無い。

というか、乗客みんなが書けているのに、オレだけ全問分からないなんて、アホのフリじゃなく完全にアホだ。

中卒とは言え、中学時代は400人ほどいた学年の中で1桁順位になっていた賢い部類の子だったんだぞ!

なんて自分では思っていたけど、みんなが記入出来る物を私だけが記入出来ない時点で、やはりアホの中卒だ。


私は何て言えばいいのか全く言葉も浮かばず、ただニヤつくキモいオッさんと化した。


それを見た女性の空港スタッフは察してくれて、適当に私の書類の空欄を埋めてくれて見事に第1関門を通過した。


次の関門はイミグレーション。

入国管理だ。

ここにも提出しばければいけない書類があるんだけど、何も書いていない。

っていうか、人が溢れていて、列になっていなくて、ただ人がせきとめられている様にしか見えない。


この光景はどっかで見た事ある。

アメリカ映画で見たアレだ。

感染する病気が発生したエリアから人々は逃げたいんだけど、そこから感染者を外に出さない様に、人間を閉じ込める場面だ。

だって、銃持ってる奴が、せきとめた人間を厳しく見張っている。

サングラスして、どんな目をしてるか分かんないけど、きっとゴルゴ13みたいにサングラスの奥で厳しく眼光を光らせているに違いない。


というか、これに並びたく無い。

上の看板に、何か英語で書いてあるけど、意味が分からないから、どこに並べば良いのか分からない。

それに提出書類だって、何も書いていないから、きっとまた怒られるのだろう…。

イミグレーションホールの端で途方に暮れたりしてみたけど、誰かが声かけてくれる訳でも助けてくれる訳でも無い。


私が健康診断の書類をチンタラやっていたせいで、日本人乗っていた飛行機の乗客達はだいぶ前の方に行ってしまったようだ。

周りは韓国語が溢れている。


ここでグズグズしていても仕方ない。

第2関門もオッさんのキモい笑顔で逃げ切るしかない。

蒸し風呂みたいな中で、きっとワンちゃん達もご主人を待っている。

とりあえずトライしてみよう。

1時間近く待つと自分の番がやって来た。

イミグレでもまた女性の人が担当だけど、まだ書類出す前から何か顔が怒ってる。

すごいムッとした感じの表情だ。

私が知っているフィリピン人には、こんな表情をする人はいなかった。

緊張しながらパスポートを出す。

何か私に言ってくる。

ナニ言ってんのか全く分からない。

だけど、きっと白紙の答案用紙を出せと言っているのだろう。


コレですか?

って感じで書類を見せると、無言でひったくる様に奪われる。

なんかコエー。

彼女が白紙の答案用紙である事を知ると、顔を天井に向け、白目を向いている。

しゃべってないけど、オーマイゴットって言葉が聞こえてくる。

なんかヤバい。

このままだと書き直して、もう一回並べとか言われそうな雰囲気を醸してる。

私の出来る最大限の申し訳ない顔で、アイムソーリーを連発して、許しをこう。


審判は胸のカードに手をつけている。

あとはイエローカードかレッドカードを出されるのかという状態の中、懸命に謝るサッカー選手の気分だ。


イミグレの恐い顔した女性は、まるでファイナルアンサー? と聞いたみのもんたのごとく私の顔を見てしばし固まる。

私の顔見て、仕方ないという表情で、ボールペンをドンと台に置いて、何やら書類に私に書く様に指示する。

何か書けって言ってるけど、何を言ってるのか分からない。

シグネチャー?

なんだそれ? 

アートネーチャーなら知ってるけど、シグネチャーって何?

サインって言われて、ようやく理解する。

パスポートと同じか確認して、それを記してようやく解放される。


それにしても、先が思いやられる。

私が分からなくてテンパるからなのか、相手の言ってる事が全く分からん。

オレはこの国で生きていくのか…


イミグレを抜けて預け荷物がぐるぐると回っている場所に行くと、もう荷物は何も残っていない。

一体どうすれば…

と固まっていると、ワンと一声イヌの声が。

声のありかに目をやると、イヌ達と私の荷物がカートに積んであった。


出国の手続きにモジモジと時間のかかったご主人様を待ちわびたワンちゃん達がウンザリして待っていた。

隣には荷物番の様に空港関係者が荷物を見張ってくれていた。


動物の検疫所で支払いを済ませ空港を出ると深夜12時前に飛行機が到着したハズが午前2時をまわっている。

飛行機も到着が2時間遅れだった。

空港でホームステイ先の家族が待ってくれているハズだけど、待っていたとしたなら、4時間は待っている。


さすがに4時間は待ってくれていないよな…

マニラ空港第1ターミナルの人がごった返してる空港出口で途方に暮れていたら、後ろからガシッと腕を捕まえられる。


なんだなんだ?

と腕を捕まえた人を見ると、知らないフィリピン人のオバさん。


アキラさんですか?


おぅ、こんな長い時間待っていてくれたんだぁ。

でも、なぜ初見の私を私であると分かったのか?


日本人でイヌ連れてりゃ誰でも分かるか…


私の腕を捕まえたのは、ホームステイ先のお母さんだった。

インターネットで覚えたタガログ語でのご挨拶を済ませると、早々に駐車場に移動。

駐車場には、ホームステイ先のご家族達が待ってくれていた。


アキラ ネムイ?

アントック カナ?


ご家族にはフレンドリーに声をかけて頂き、すごく助かった。

とりあえず、夜も遅いので、早々に出発しようという話しになったのだが、クルマが動かない。


たぶん、クソ暑い中で長時間待機している中、冷房をつけていたのだろう。

そりゃバッテリーやられるよな…

そんな事を思っていると、クルマを押しがけするという。


マニラに到着して最初にやった事が、クルマを押しながらのダッシュだった。


押しがけする為、クルマを押しながらダッシュを10本近くやったであろうか。

いっこうにエンジンはかからず、今度はガソリンがきっと無いからエンジンがかからないんだとか言い出す。

ガソリン代をくれと言われる。

だけど、まだ換金もしていない。

日本円を見せたらあきらめてくれた。


1時間ほどかけてガソリンを買ってきて、再度おしがけダッシュを10本。

なんかの部活みたいだ。

エンジンがかからないので仕方ないとあきらめ、タクシーに乗り込んだのはもう朝だった。


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6.ホームステイ

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