第12話 パパが女(アリッサ)になったとき LA発LGBTトランスジェンダー家族日記
瞳はダイアモンド。大きくてつぶらな目のなかに星がキラキラしてますね。美しい人。
アリッサの男性だったときの名前は「エイタス」”Athas”と言います。
英語では”progress”、日本語だったら「躍進」という意味。なんて素敵な名前。タイでも珍しい名前。アメリカではまったく聞かない名前。
ラブラブの頃はよくあの唄を文字って、「世界にひとつだけのエイタス」って、歌ってました。
愛とエイタス。
「人も羨む仲がいつも自慢のふたり」で、「あなたとならどこまでもいけるつもり」ってお互い信じてたのに、「突然の嵐みたいに音を立てて崩れて」いっちゃった。
家族にカミングアウトしたとき、彼女はすでにセラピストと相談し、法的に女性名に変えることを決意していたようです。ただ、わたしが混乱しないよう、「決意を伝える」時期を待っていた。「名前変えます」宣言をしたのは、カミングアウトの数週間後でした。
セラピストのケイシーからは、「周囲の人が『彼』から『彼女』へと、できるだけ早く順応できるように、名前を女性名に変えるのは必須」、とアドバイスされたそうです。
ケイシーのアドバイス、今考えると納得。その通り。でも、わたしはパートナーが「女性名を一緒に考えて」と言ってきたとき、即答で断りました。
「自分で決めて」と氷の女王みたいに冷たく言い放ちました。
イヤだったんです。名前を変えたらエイタスがいなくなってしまうようで。
義理の母はエイタスという名前をタイの占いをもとに選びました。
パートナーも母親と同じタイ式の占いにをもとに、名前を選びました。英語、日本語、タイ語の3カ国語で対応できる名前をいくつか選んでもらい、そのなかから、一番気に入った名前を決めたそうです。
法的手続きは意外と簡単。まずジェンダー専門のセラピストから、トランスジェンダーの診断書を入手する。そして市の裁判所に名前と性変更の書類と診断書を提出し、手数料(約4万円!!)を支払い、指定された日に裁判所に出向き、承認を受ける。本人もびっくりするほどの簡単なプロセスでした。
パスポート、運転免許証、ソーシャルセキュリティーカードなどの名前変更は各機関に問い合わせ、それぞれ進めていきました。
出生証明書に関しては、パートナーが生まれたオハイオ州では、トランスジェンダーの名前変更がまだ認められていません。なので、この書類に限り、名前はエイタスのまま。ただ、これもカリフォルニア州で申請すれば、変更は可能だそうです。
こうしてエイタスはいなくなり、アリッサという女性が誕生しました。
娘たちはアリッサの語尾を取り「リッサ」とか「リス」と呼びます。
わたしの気持ちは常に振り子のように揺れてました。「優しくするもんか」という反抗心。それと同時に「パートナーの立場になったら、いつまでも昔の男性名で呼ばれるのはつらいだろう」という相手を思いやる理性。
結局、ひねくれもののわたしは、エイタスの「えい」を取り、「えいこ」という
日本語の女性名をつけて、パートナーを「えいこさん」、「えいこちゃん」と呼ぶことにしました。
一言も相談せずに決めた日本語名をアリッサは、とても喜んで受け入れました。
文章を書くにあったて、混乱を避けるため、アリッサという名前を常に使っていますが、実はいまだに「えいこちゃん」と呼んでます。彼女に腹を立ててるときとかは、意図的にエイタスと呼んでしまうこともあります(これはよくないね)。
ちゃんちゃらおかしい、わたしの密かな反乱。
アリッサがエイタスだった頃。子供たちと一緒によく工作してくれました。辛抱強くて、手先が器用。やりたがりだけど、すぐ投げ出すわたしとは大違いで、娘たちのお友達からも慕われてた。
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