第14話 パパが女(アリッサ)になったとき LA発LGBTトランスジェンダー家族日記
今日は嫌われるのを覚悟でパートナーのアリッサがカミングアウトしたときの気持ちを正直に書きます。
時間を経て、わたしの心の状態も変化していくのですが、今回は、直後のころ。暗くなるけど、堪忍ね。
両親に「人の立場になって考えられる人間、人の痛みを感じられる人間になりなさい」と言って育てられました。そして娘たちにもそんな人間になってほしいと常に願い、その思いを伝えています。
でも、あのとき、わたしにはそれができなかった。
アリッサもとても苦しんだと思う。勇気を振り絞ってのカミングアウトだったと思う 。
今になって、やっと「あのとき優しい言葉をかけてあげればよかった」と思うことができる。
でもあのときは「アリッサの立場になる」なんて絶対無理でした。
妻のわたしに直接言えなかったアリッサの弱さを憎み、娘たちが成長するまで待つことのできなかった彼女の身勝手さに憤りを感じました。
「クレジットカード返済地獄」告白のショックからやっと立ち直りつつあったときでした。
暗い穴から這い上がってきたわたしを、あの人が土足で蹴り付けて、あの人にもっともっと深くて怖い穴に落とされた気持ちになりました。
カミングアウトの瞬間、最初に思い浮かんだのは「離婚」の2文字。ただ、その夜、ひとりになって冷静に考えたとき、感情に任せて離婚したら損するのは自分であることに気付きました。
今までアメリカ生まれのあの人に生活の全般を頼りきってきたので、わたしには自立する自信がなかった。育児もひとりでやってく自信がなかった。収入だって、あの人のほうが2倍稼いでいたし。
なによりも20年間近く、一緒に暮らして、たくさん思い出を共有した人とそんなに簡単に別れることができなかった。
「もしわたしたちに子供がいなかったら、即離婚。でも、子供たちにはわたしたちの両方が必要。だから離婚しない 」。
翌日、アリッサにそう伝えました。
アリッサは、わたしが彼女の決意を受け入れて、サポートすることを期待していたはず。「離婚」という言葉を聞いて、アリッサはとても悲しい顔をしたけど、わたしは知らん顔をしました。もっと苦しめばいいと思いました。
悲しみ、落胆、失望、怒り、不安、混乱、恐怖、喪失感。あの頃、わたしの心の中は常にそんな破壊的な感情が渦をまいて、気が狂いそうでした。
ひとりになるといつも泣いてました。運転中、犬の散歩のとき、入浴中、仕事でほの暗い部屋でクライエントにマッサージするとき。涙が溢れて、それを止めることができなかった。
朝の目覚めが悲しくつらかった。いつも「夢だったらどんなによかったのに」と思った。
でも、わたしには壊しちゃいけない日常がありました。「娘たちにつらい思いをさせてはいけない」。「彼女たちを悲しませてはいけない」という気持ちがあの頃のわたしを支えていたと思う。
悲しい顔をしたら娘たちが不安になるとわかってたので、無理して笑って、無理して元気なふりをしていました。
今回は、カミングアウト直後のわたしの気持ちを書きました。わたしの気持ちは時期を経て、大きく変化するのですが、それは後ほど触れたいと思います。
明日はアリッサと交わした約束について書きます。
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