第19話 パパが女(アリッサ)になったとき LA発LGBTトランスジェンダー家族日記
今回は「FB憤激事件」の後半です。
長女が生まれた直後から、日本人ママとの付き合いが大の苦手で、なるべく目立たないようにひっそり、こっそり行動し、ママ友とは「付かず離れず」、「広く浅い」関係を保ってきたわたし。
幼い頃、母親から「出る杭になって人と違うことしなさい」と言われ育ったわたしですが、トーランスの日系社会で「出る杭」になりたくなかった。
アリッサのカミングアウトは2016年の5月。娘たちは7歳と9歳。育児がだいぶラクになり、マッサージセラピストの仕事が充実しはじめ、「仕事してるから、ママ友との関係はテキトーでいいや」って思えるようになってきた頃でした。
以前にも触れましたが、アリッサがカミングアウトしたときの一番強い感情は羞恥心と恐怖心。ママ友に知られることが恥ずかしかった。ママ友の反応を予想するだけで、恐怖心で身震いがした。
「愛さんのだんなさん、前からオネエっぽいって思ってたけど、ついに女性になっちゃったんだって」。
噂話で盛り上がるママ友の声が幻聴として聞こえてしまうくらい、わたしはママ友の反応が怖かった。
狭い日系社会、いずれは知れ渡るだろうことは予想していましたが、なるべくなら知られたくなかった。隠し通せるなら隠していたかった。
アメリカの夏休みは6月にはじまり、約3ヶ月続きます。長い長い夏休み。アリッサのカミングアウトは衝撃のノックアウトでしたが、夏休みの3ヶ月間はママ友と顔を合わせずにすむ。
それなのに、それなのにあのいまわしい「FB憤激事件」は起きてしまったのです。
夏休みも終焉に近づいた8月のある日。いつものように携帯をチェックすると、異常な数のテキストとメールが。
みな同じような内容で「びっくりしたよ」「エイタスにとってはよいことだけど、愛はだいじょうぶ?」。英語のお友達からは “Congratulations to Sripan family”.
わけがわからなくなり、友人に電話して、メッセージの意味を聞く。
友人:「Facebook見てないの?」
わたし:「???」
急いでFBを開けると、アリッサの「念願かなって女性になります。新しい名前はアリッサです。職場でも大歓迎を受けました。みなさん、ありがとう。トランスジェンダー万歳!」的な英語のポストが。
このFBのポストを見たときのわたしの気持ち、想像つきますか?
アリッサはソーシャルメディア好きで、わたしの友人知人にも誰かれかまわず友達リクエストを出すので、わたしたちには80人以上の共通のFBフレンドがいました。日本人のママ友もたっくさん。
ママ友5人がこのFBポストを見たら、1週間後にはトーランス中のママに広がっちゃうくらいソーシャルメディアってパワーがありますよね。
わたしの気持ち。それは高田純次に早朝バズーカでアタックされる被害者の気持ち。
寝耳に水いれられる被害者の気持ち。
わけがわからなくてアワアワした後に、事の次第がわかり、 怒りが大爆発するんです。
最初に買い物依存症によるクレジットカード借金返済事件、次にカミングアウト、さらには「FBでみんなに告白」事件。
アリッサに復讐されてる気がしました。わたしが長い間好き勝手をして、あの人をほったらかしにして、威張って、偉そうにしてたから、こんな形で大復讐してるんだと思いました。
無神経で残酷な人だと思いました。
首根っこ掴んで、振り回して、遠くの無人島まで、ハンマー投げみたいに投げ飛ばしたかった。
隠し通せるなら隠しておきたかったのに。
電話で問い詰めると “I am very sorry. I never expected that my FB post would cause you trouble”. 「ごめんね。自分のポストが愛に迷惑かけるなんてちっとも思わなかった」とアリッサ。
マジですか。わけわかんない。
わけがわかんないけど、なんとなくわかる。
つまり、アリッサはずっと女性になりたくて、やっとカミングアウトして、晴れてみなに歓迎されて、女として生まれかわったけど、彼女の脳みそはまだ男性脳だったんです。
男性脳:目先のことしか見えず、先の事を読む力に欠ける。
アリッサは、職場のみなの前でカミングアウトして、新しい名前も発表して、みなに歓迎されて、うれしくって、うれしくって、そんで家族にどんな迷惑がかかるかなんてちっとも考えずに、わたしに一言も相談せずにFBで大好評しちゃったんです。
愚か者。でも悪気はなかったのよね。
今となっては笑い話。でもあの時はつらかった。お先真っ暗。どうしてよいかわからなかった。 子供とか仕事とか、ほったらかして、どっかに消えてしまいたかった。
その日のうちにアリッサにFBのポストを削除してもらい、わたしはアリッサを自分のフレンドリストから除外しました。
女性脳について描いた映画、タイトルはずばり、"Female Brain". トランスジェンダーのパートナーを持つ女性として、この映画見るとおもしろい。トランスジェンダーの人たちの脳はどっちよりなのでしょうか?
あー、書いたらすっきりした。
怒り狂ったわたしですが、今考えると、あれはあれでよかったのかな。どうせ知れ渡っちゃうわけだしさ。あの時、わたしは弱かった。でも今は違う、マサ斎藤みたいに強いから、何が起きたってへっちゃら。
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