今でも私の支え。犬のピピの物語(4)海の草原

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 埋め立て地のとったんへ乗りつけると、そこでは、冷たいうす青の風が、さあさあとふいていました。でも、太陽はなんにもさえぎられずに、おおきく地上を照らしています。
 ピピは、いきなり、ひろいひろい場所におろされました。青い海と、みじかいうす茶の草の海とが、ピピがそのちいさな四つ足で立っているアスファルト道路を、なみなみとかこんでいます。

 まず、はじめに、ピピは、あしもとのアスファルトを、くんくんかぎました。それから、わたしたちは、高いフェンスにかこまれた、いちばん小さな草地へはいっていきました。
くんくん、くんくん、くんくん!!
 ピピは、なんだか仕事のように、きゅうにねっしんに、くんくん歩いてまわります。枯れた草、ながいつる、ちいさい緑の群れ。その下の、厚い厚い地面のにおい。昔、ここは塩田だった。その塩のことも、ピピにはもしかしたらわかるのでしょうか?

 けれど、そのうちにピピは、フェンスぞいの排水溝(はいすいこう)へ、すとんと落ちてしまいました。それはかわいた、白いセメントのみぞで、たった20センチほどの深さなのですが、ちいさなピピは、自分で上がることができません。
(さあ・・・どうする、ピピ?)

 ピピは、だまってすすんでいきました。枯れ草がからみあい、屋根をつくっているトンネルを、ずんずん、ずんずん、すすんでいきます。ちいさい、黒い、なめらかに光る背中が、くねくね、くねくね、うごいていきます。このままでは、トンネルの奥に消えていってしまいそうです。
 とうとう、わたしは、ピピをとりだしました。
 
 さて、この海の草原から、船が泊まる水路をへだてた、すぐの古い住宅地に、わたしのうちはあります。
 ガレージに車を入れ、ピピをだいたわたしは、玄関で、
「いぬを買ってきたよ!」
 と、宣言しました。
「まあ・・」
 でてきた母は、がくぜんとしています。寝耳に水、というか、ビーグルふうにいうと、たれみみにカミナリ、です。

 その夜、ピピは、籐のケージの中で、クッションと厚いタオルといっしょに、玄関のかさたての横にとまりました。
「ピピ?」
 わたしが、とつぜん、のぞきこみます。
 するとピピは、眠っている顔のまま
ぴょこん!!
 と飛びおきました。ねむくて、ふらふらしながら、それでもこっちをむいて、きちんとすわっています。
「・・・・・・」
 わたしは、すこし、きのどくになりました。こんなに幼いのに、やっぱり、緊張しているのです・・

 そのあいだ、父と母は、わたしのいない台所でひそひそと話しあっていました。
(いきものは、たいへんだぞ・・)
 母が、(うんうん、)とうなずきます。
(死んだときは、つらいし・・)
 母が、また、(うんうん)

 わたしは、
(ふふん)
 と、無言でわらいました。
 なにを言おうが、ピピはもう、ここにいるのです。

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