今でも私の支え。犬のピピの物語(5)夜の私の部屋で

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第2章 はじめの12月・ちいさい妖怪 

たしは、とつぜん、きゅうそくに、いそがしくなりました。
 ピピのための買いもの。ピピのための食べもの、ピピのためののみもの! 
そうじ、せんたく!!
それから、読書もです!(あの、ウグイスあん色の目の店員がいたペットショップが、わたしに「愛犬のそだてかた」という本をくれました。)

 そして、わたしはこうしたしごとに、ウキウキといそしみました。
ピピのためのいそがしさは、かえってわたしを落ち着かせてくれたのです。
 じつは、わたしは、「おいのり」もしていました・・

(晴れますように!!)

 ピピが、まいにち庭であそべますように。あたたかいお日様が、まいにちピピをつつんでくれますように!
 それでじっさいはどうだったかというと、ピピが来た土曜日から、次の週の木曜日まで、ずうっとお天気はよかったのです。

 ところで、初めの日の夜、ピピが泊まった玄関はとても寒そうでした。
 それで、次の日の日曜日から10日ほど、ピピは二階のわたしの部屋に泊まったのです。

 初めてわたしの部屋にやってきた夜、ピピは
ぱっ・・!!
と、からだを輝かせました。
いえ、ほんとうにわたしにそのひかりが見えるほど、ピピの小さな全身がよろこびで輝いたのです。

 それからピピは、敷きかえたばかりの明るい緑の畳の上を、太いみじかい手足で
とことことことこ!!とことことことこ!!
 駆けまわりました。
ピピが駆けているあいだ、わたしは部屋のすみに新聞紙をしき、そのうえにトイレシートをテープでとめます。そのわきに、天井がアーチ型になった籐のケージを置きます。
 これで、トイレつきシャワーなし、ピピホテルの完成です。

 というわけで、夜になると、わたしはピピをケージに入れ、ドアをロックします。
とじこめられたピピは、おおさわぎで抗議しますが、わたしは聞こえないふりでひょいひょいと階段を上がっていきます。
ピピの体重は、まだ1キログラムもありません。だからひょいひょいひょいなのです。

 
 ある晩、ピピはいつものようにケージに入れられ、かぎをかけられて、ひどくなきました。
「きゃんきゃんきゃんきゃん!きゃんきゃんきゃんきゃん!!きゃんきゃんきゃんきゃん!!!」
 ・・・・・
 いつもの抗議の声とは、少しちがうみたい・・・? でも、わたしはそのままピピをながめていました。
ピピは、ますますあわて、中でぐるぐる回りはじめます。
(あっ! ・・そうか!!)
 わたしが気づいたとき、ピピはもう、黄色いマヨネーズのようなうんこを、ケージに敷いた古いマフラーの上に落としていました。
「・・ああ。ピピ。わるかったねえ」
 ピピの「コトバ」がわからず、必死のうったえを聞かず、ほんとうにわるかった。
この黄色いマヨネーズは、もともとおなかがゆるかったのか、それとも今しがたのストレスでマヨネーズになってしまったのか・・

 とにかく、わたしはピピにあやまりながら、マヨネーズののった部分をはさみで四角くきりとりました。
このマフラーは、わたしがピピのふとんにと、おさがりにしたものです。
おさがりにしたとたん、さっそくきみょうな切りとりがはいっ(てしまっ)た茶色と黒のリバーシブルのマフラー。
このマフラーは、それからずっと、ピピのお気にいりになりました。


 さて。夜、わたしの部屋で。
 ピピは、畳に正座したわたしのひざを基地にしました。
 まず、わたしのももの上によじのぼり、わたしとおなじ方向を向いてお座りします。その座り方は
きりっ!!
 として、なんだか「司令室の艦長」のようです。
その顔つきはほこらしく、でも、もう楽しくてたのしくてしかたなーい!というように、ニヤニヤしています。
 
「さて、さて・・・」
 ピピ艦長、、畳の大海原(おおうなばら)を見わたしましたよ
「発見、発見、はっけーん!!」
 おもむろに、ジャンプ!! 艦長はなぜかひとり海へとびこみ、大冒険にくりだすのです。

 あっというまに海を抜けたピピは、上陸後、こげ茶色の木でできた超高層ビル(わたしの本棚です)の一階を物色します。
一階には、大判の本・・・わたしが買った画集とか、わたしが子どもの頃に母が買ってくれたクラシックレコード集とか、背の高いモノモノが立ち並んでいます。
 次にピピは、高層ビルのすぐとなりにある巨大なスチール製の高架橋(わたしの机です)の下を、神妙な顔つきで、しめやかにくぐります。
そしてまた次の、こんどは木とガラスでできた高層ビルの前の暗い峡谷を、ひたひたひたひたと、通りぬけるのです。
 やがて、ピピの上に、真っ白いオーロラが、ゆら、ゆら・・・ 大きくゆれて、立ちあがりました。
それは、古くなった押入れのふすまのかわりにとりつけた、ビニール製のアコーディオン・カーテンなのです。

 ピピは、そうしたもののいちいちに
くん!くん!
 としっかり鼻の印鑑をおし、ちいさな口でくわえて、かくにん作業をしたのです。

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