今でも私の支え。犬のピピの物語(6)死んだふりをしてみたら

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  そんな、ある晩のことです。
 わたしは、ちょっといたずらに、「死んだふり」をしてみたのです。
「ごそごそ、ぱたん・・・・」
 これは、わたしが畳の上に横たわった音。
そして、息をしているのをかくすため顔をうつぶせて、その息もできるだけひそめて、じっと動かない・・・・
「ちゃかちゃかちゃかちゃか」
 小さな爪が畳をすすむ音がして、ピピがやってきましたよ。わたしはますます、死んだふりをつとめます。
 ピピはまず、わたしのせなかによじのぼりました。それから、鼻で
「ふんふん」
 と、肩甲骨(けんこうこつ)のあたりをつついてみました。そして今は
「ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃ・・・」
 わたしの長いかみのけを、口と舌で混ぜまぜにしています。
まったく、わたしが静かなのをいいことに、おもちゃにして、いい気になってあそんでいるのです。

 でも、そっと、薄目でのぞいてみたとたん、わたしはおどろきました。

 ピピのちいさな顔には、しわがたくさん寄って、その目はとてもしんぱいそうに、しんけんに、わたしを見おろしていたのです。
(ごめん・・しんぱいかけて・・・)
(でも、ピピはわたしをしんぱいしてくれた・・)
 すまなさとうれしさが入り混じった複雑な気持ちをぼんやりともてあましながら、わたしは起き上がりました。
 ピピ? ピピは生まれてから、まだ二ヶ月もたちません。
そんなに幼いピピなのに、いきものが病気になることや、死ぬことや、そんな悲しみが、もうわかっているのでしょうか? ・・・

 さて。
 こんなふうに同じ部屋で寝泊りするうち、わたしにも、ピピの「コトバ」がすこしずつわかるようになってきました。
 たとえば、ときどき、ピピはおちつかず、遊ぶわけでもなく
「ちゃかちゃかちゃかちゃか! ちゃかちゃかちゃかちゃか!」
 ただやたらに、歩き回ることがあります。
 わたしは、さっと、ピピを抱きあげます。
「ちょっとまって。ちょっと、まってね」
 ピピを抱いたまま、階段をほいほいほいと駆けおり、玄関のドアをあけて、夜の庭へピピをはなします。
 暗闇の中に、ピピのちいさな黒い背中が
(ちょろちょろちょろ・・・)
 と、消えていきます。
 はい、ピピはうんこをしにいったのです。
 わたしは、冬の夜の、きれいなつめたい空気を吸ってまっています。
とうめいに静まりかえった庭。
きらめくおおきな冬の星。
そのしたには、黒い森がある。
わたしが吐く息が、白い羽のように星空へのぼっていきます。
(ちょろちょろちょろちょろ・・・)
 冷えた緑の庭から、ピピがもどってきます。
 それで、わたしたちはまた、明るくあたたかい二階へとのぼっていくのです。


 昼間のあたたかな時間、ピピは庭であそびました。
 庭は、わたしの家の南側にそって、ほそながくのびています。
 その東はんぶんは、おもに花壇とうえきばちです。
花壇のおくには、あじさいと、ゆきやなぎと、赤い花のつばき、白い花のつばき、なんてん、にわうめ、ばら、らいらっく、ひばが立っています。
 西はんぶんは、細い道がくねって、小さい築山もあります。
笹、さかき、ひいらぎ、あしび。そてつ、れんぎょう、いちょう、ひば。
さるすべり、きんもくせい、じんちょうげ、はくちょうげ。かえで、あおき、のうぜんかずら、しだ、ゆり、つつじ、せんりょう、まんりょう。
そのほか、そのほか。
この木たちは、もういない、わたしの祖父が植えたものです。
そして、木のなまえは、やっぱり今はもういない、祖母が教えてくれたのです。

 その庭を北側へまわると、家の西側には潮風をうけて、あじさいといちじくの木。
ちいさなトマト畑もあります。

 東西の庭のほぼ真ん中には、白いコンクリートのアプローチが、玄関へつうじています。
 玄関ポーチには、赤い花をつけたゼラニウム(ひとの肩くらいの高さまで育っています!)、シンビジウム、ジャスミンの鉢。
黄色い実をたっぷりとつけた、金柑のつぼもあります。

 この玄関をでて、アプローチをとおり、コンクリートの階段をおりたら、桜の樹がある下の庭や、ちいさい畑。 車庫や、はなれの部屋へ行けるのです。



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