アホの力 3-18.アホ、準備して帰る

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『お雑煮フェスティバル』は、その頃避難指示が続いていた小高区以外の、鹿島区、原町区どちらも巻き込んでのイベントだった。こういう形でイベントが行われる事は、今までには無かった事なのだそうだ。そこに存在した不文律を破ったイベントという事になる。参加店舗は全部で25店舗、それらのお店で、工夫を凝らしたオリジナルの雑煮を、正月からひと月間販売する。スタンプラリーなども行って、全店舗制覇を成し遂げた人には『お雑煮マイスター』の称号を授けるというおまけもついている。南相馬の市域は広い。果たしてお雑煮マイスターは現れるのだろうか。
 

完成した雑煮は、チラシ用に写真に収める必要があり、各店舗に取材に回らせても立った。一眼レフカメラなど暑かった事も無かったが、カメラを借りて撮影させてもらった。“なんちゃってカメラマン”という訳だ。さすがにこの作業は、一人で25店舗を廻ることは出来なかったので、手分けをして廻った。それでも、時間の無い中かなりの店舗数を廻ったので、かなり忙しかったのだが、この作業には良い事もあった。試作の雑煮を一足先に味わえる事である。お店ごとに入魂の一品を、取材と称して頂く。しかも無料で。これは文字通りの役得だ。そうして雑煮を頂きながら、店主にその雑煮に込められたストーリーを聴く。2012年の終わりの頃の南相馬は、復興を担う作業員などが街に大勢入っていて、飲食店はてんてこ舞いなほど忙しかった。そんな中でも、各店舗とも手間暇を割いて、『お雑煮フェスティバル』に参加してくれている。とても熱い想いを持っているのだ。どこのお店でも、とても熱っぽくイベント参加の想いを語ってくれる。

『震災で大変な目に遭ったこの街を、何とか盛り上げたい。』

『この街に明るい話題を振りまきたい』

語られたのはこうした熱い想いだった。これを聞いて熱い気持ちにならないアホはいない。季節は初冬、寒風吹きすさぶ中だったが、私も熱い気持ちを持って、お店廻りを始めとする様々な作業にあたっていった。

『お雑煮フェスティバル』ではイベントを盛り上げるために『ぞうに新聞』というミニコミ誌も作った。これはぞうにぃが執筆を担当する。

また、年明け早々に道の駅南相馬で開催される『冬まつりinはらまち2013』への出店も決まり、みんなで雑煮の出店を出す事にした。
スタンプラリーの台紙が印刷されたチラシも作られ、広報折込用の仕分けもみんなで手分けして行った。
順調だ。大変バタバタではあったが、準備は着々と進んでいる。
時季は年末、私も何とか冬休みが取れそうかな。休みは何か月ぶりだろう。
正月は久々に実家でゆっくりしよう。

12月29日、私は埼玉の実家に帰省して、正月を過ごす事にした。

この時は、正月休みが終わったらすぐに南相馬に戻るつもりでいた。

だが…。

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