安本豊360℃ 歌に憧れたサッカー少年 Vol.29「波に乗る」

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「あの頃、とても面白かったよ。とにかく何もかもが上手くいっていてね。」


ギブソンは、少しうつむき加減に笑った。


それほど昔のことではないのだが、僕は、よく、年取った人が若い頃を思い出しながら「あの頃は、やんちゃしたものだったよ」などと話すときのような印象を受けた。


スロープでのワンマンライブの成功について、ギブソンには、思い当たることがあったようで、「あれは、ワンマンライブの1週間前だったんだけどね。」と話し始めた。

 



2015年の6月、川西市でアーティストオーディションが開かれるという情報が舞い込んだ。


ボーカルアコースティック部門と、バンド部門があり、1次審査は、音源・書類審査で行われるらしい。


1次審査を通過すると、決勝大会進出をかけて、川西市の広場で2次審査が行われ、最終は、500名規模のホールで優勝が決まる。


豊と礼央は、簡易で録った編集無しのCDで、このコンテストに応募し、2次審査を通過して、結局、アコースティック部門で優勝を勝ち取った。


そのことを、ミュージシャン仲間に報告したところ、SNSで話が盛り上がり、ワンマンライブもあるぞというおまけ情報付きで、あちらこちらに広がったと思われる。


2人とも、気分は上々で、どこへでかけても積極的に話しかけて、このユニットを知ってもらいたい気持ちに、背中を押されているようだった。


礼央も、呑み屋で知り合った人物に、川西市で行われたコンテストの話をちょっと自慢してみたところ、神戸では有名なKissFMの関係者だったようで、出演話がとんとんと進み、ワンマンライブの数日前に、ラジオで広報する機会にも巡り合えた。


2人は、もちろん、発売前のCDの宣伝をすることも忘れなかった。


ことの発端となった「アーティストオーディション」は、どうやら、この年以来、行われておらず、満員のあの会場で優勝したことは、確かに彼らの実力なのだが、その時期に、この催しに出会ったことは、2人にとって、時の運だったと言える。



 

スロープで初のワンマンライブを終えてすぐ、礼央の弟の結婚式があった。

披露宴の席で、2人はお祝いに歌うことになった。


礼央の弟は、好青年で、彼女と一緒に、2ndLEGの路上ライブをよく見に来てくれていた。


礼央とのユニットが気持ちよくすべりだしていたことと、礼央の弟の祝い事を重ねて、豊は、心から嬉しかった。


彼らの幸せを、はっきりと歌にしたい…と思った。


歌詞は、まず豊が書いた。


そして、礼央にも参加してもらった。


言葉の選び方は、難しい。


豊が描く幸せと礼央が思う幸せは、当たり前だが、微妙に違う。


豊と礼央は、この時、初めて揉めた。


幸せな揉め事だった。


「旅のしおり」と名付けられたこの歌は、以後、2人に、結婚式で歌う機会を多くもたらすことになった。

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安本豊360℃ 歌に憧れたサッカー少年 Vol.30「bebedor」

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