今まで出会った本当に怖い女の人の話

 それはそれは昔のことなのですが、とある場所で新聞販売店の専業員として働いていたときのことです。ある一人暮らしの女性のマンションに集金に行きました。朝方のことです。なかから下着の上にTシャツを着ただけの女の人が出てきました。ずいぶんと気分が悪そうだったので、「二日酔いですか」とたずねたところ、「いえ、風邪をひいてしまって昨日から寝込んで何も食べてません」と答えました。それなら何かの縁というか一応顧客ですので、「あとから薬を持ってきますね」と答えてその場は帰りましたが・・・安易にやさしいふりをするのもどうかと思います。オートロックのマンションの一人暮らしの女性の部屋に見ず知らずの男が集金にきて、下着が透けてみえるような恰好で、普通出てこないですよね。
 話は変わりますが、新聞販売店というものは非情なまでの過酷な職業です。すこしおおげさですけど・・・ともかく月末の集金時になるとほぼ徹夜の日々が続きます。その時も私は睡眠不足で倒れそうでしたが、日曜日は夕刊もないので午前中集金に回ったら寝ようとおもっていたのです。そんな時にふいにでもないですけど・・・彼女があらわれたのです。
 集金した金を店に納金して、一眠りしてから薬を届けようとしたところ、主任にあって昼飯を一緒に食う羽目に・・・別にいやではなかったのですが、眠かったのです。そこで麦酒を数杯飲んでさらに眠気が増しました。家に戻る前にもう一度店によると、店長の奥さんがメロンを一個まるまるくださいました。なにはともあれおかしな一日でした。眠すぎるというか実際既に眠っていて、夢の中にいるのかと思ったほどです。
 ともかく、眠いのを我慢してそのお客さんの部屋に薬とついでにメロンを届けました。よくよく考えればその時半分に切って自分の分は確保しておけばよかったのでしょう。しかしなんしか眠かったのです。彼女の第一声は「一緒に食べよ」でした。
 いやいや風邪ですよね、具合悪いんですよねといいたかったのですが、私も軟弱なもんでついつい部屋にあがってしましました。そこには「こんなに!」と大声で叫びたくなるほどの料理が並んでいました。風邪ですよねと本当に言ってやりたい気持ちでしたが、ついついそのままそこで、晩御飯を食べてしましました。満腹で食いたくもないのにです!
 その後、メロンを一緒に食べて、しばらく話をしました。取り留めもない話です。すでに私の断睡眠時間は、三日目に突入していました。さすがにめまいがというか意識が遠のいてきたので「じゃあそろそろ」と腰を上げたときの彼女の第一声は「コーヒー淹れるわ」でした。
 「今頃!」と思いましたが、しかたなしにコーヒーをいただきました。コーヒーなんかで吹っ飛ぶほどの眠気ではなかったのですが、その時私は何気にすることをしないと帰れないかなと思い始めました。私としても決して嫌いではないのですが、なんしか眠かったのです。改めてほとんど下着姿で人前にでてくるわけないよなあと思いました。その時に気付くべきだったのでしょう。逃げれない夜とはまさにこんな夜のことを言うのかと思った次第です。

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