それは神がかり的な出会いから始まった~その5
ここは平泉駅前の商店街。
60年前は両脇に家などなかったそうで、
ここでも義母はどうもピンと来ないようでした。
「駅の向こうに行けるかしら?」
案内の方に聞くと、
「もちろんどうぞ」とホームに抜ける扉を開けてくれました。
━─━─━─━─━─
あっ!!
義母と叔母が同時に声を上げました。
駅の向こうには
60年前と同じ風景が広がっていたのです!!
線路も、線路から見える山々も。
「あの山に栗拾いに行ったのよ!百合の花も摘みに行った。
そうそう!あの山、なんて懐かしい……」
義母は目にいっぱい涙を溜めながら
当時を思い出しているようでした。
「お父さん、お母さん、戻ってきたよ。平泉だよ」
叔母は、日本から持参した祖父母の写真をそっと取り出し、
懐かしい景色を見せてあげていました。
「あっ!あの道! ほら、あの道も同じだよ!」
2人が小学校の頃、毎日通った線路を渡る小径です。
なんと、同じ場所にそのままありました!
ただ少し変わっていたのは、新しく塀ができていたこと。
「あの塀の向こうに満鉄の官舎があったんだけど……」
そこに昔の家はもうないと分かっていても
確かめずにはいられませんでした。
今はどうなっているのか。
官舎の跡地はどう変わってしまったのか……。
━─━─━─━─━─
塀で囲まれたその一角は、
今でも鉄道関係者の住宅地なんだそうです。
でも、義母が住んでいた頃の面影は全くありません。
「少し歩いてみましょうか」
ガイドさんに誘われるまま、横の小径に入っていくと、
古い住宅地に突き当たりました。
「当時の様子が分かる人がいるかもしれません。
ちょっと聞いてみましょうね」
家の中から出てきたおじさんが
何やら説明しているようです。
通訳してもらうと、
この家は45年前に建てられたもので
もう誰も住んでいないとのこと。
「そうか、これで築45年だったら
60年前の建物なんてもうないよね」
私たちがガッカリしていると
おじさんがこんなことを教えてくれました。
「ここからちょっと歩いた所に
日本人が建てた家が3軒だけ残っているよ。
でも、あと3ヶ月で取り壊される予定なんだ」
………
言葉を無くすと同時に、鳥肌が立ってきました。
なんという偶然!
この平泉に、当時の建物がまだ残っていたなんて!
しかも3ヶ月後に来ていたら、もう見られなかったなんて!
「おじさん、謝謝!」
信じられない気持ちで、私たちは先を急ぎました。
どんな家なんだろう?
義母たちが暮らしていたような家なんだろうか?
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