看取りのプロが伝える 「生きる」とは?  ~私に最も「生きる」を教えてくれた末期癌の女子高生の話~中編

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再入院

12月に入り、再入院してきた美咲ちゃん。


足の浮腫み、腫瘍と腹水によるお腹の腫れや体力低下などが理由で入院になった。


しかし、高校生活、日常生活を送りたい希望もあり、幸い高校が病院のすぐ近くだったので、病院から高校に通い、週末は家族と過ごす為に外泊しながら入院生活を送った。

実は、1回目の退院の時に美咲ちゃんから病棟スタッフ宛に手紙を貰っていた。


入院中は、手術や大きな検査など痛みや苦痛を伴う処置が多かったのにも関わらず、一度も弱音を吐いたことがなかった。いつも大丈夫と笑顔で答えていた。自分の病気について、私たち医療者にも家族にも聞いてきたことは1度もなかった。


しかし、退院時に貰った手紙には色々と悩み、泣き、辛かった思いが綴られていた。それを読んだ私はショックを受けた。自分たちがその苦悩の助けになれなかったことに。無力感を味わったのだった。


私は美咲ちゃんの中では、どんな存在なんだろう?と思うと怖かった。

 

12月に入院して再会した時、今の関係性のままでいいのだろうか。どうアプローチをしていいのかわからなくなっていた。自信がなかったのだ。


まずは、美咲ちゃんの思いがわからないと、どうするのが一番いいかわからない。告知されていないので難しい話かもしれないけれど、本人の気持ちを置いたまま、きっとこうだろうという憶測で物事をすすめたくなかった。


そう思った時に、このまま告知しなくてよいのかということも悩みだした。

 

看護師と患者の枠を超えた関わり

 私は悩みと迷いを看護師長に相談した。

看護師長「美咲ちゃんとあなたがパートナーシップをとることで、美咲ちゃんが変わり、そうすると、お母さんも変わるんじゃないかしら。」

「パートナーシップをとりたいけれど、どうアプローチしていいのかわからないんです。」

看護師長「面接の時間を決めて、話してみたら。何を話すのでもいいから、一人じゃないんだということを強調したら良いと思うわ。」

 

その時私は、ハッとした。


私は、美咲ちゃんに対して「何かをしよう」としていた。「何かすることで役に立とう」としていた。


大事なのは、「何かをする」のではなく、「一緒にいること、側にいること」だ。

 

「何かをしたい」のは私の希望。美咲ちゃんの希望ではない。

 

そのことに気付いた私は、緊張しながら美咲ちゃんの元へ行った。


もう、ドキドキの大緊張。まるで大好きな人に告白するかのような緊張度合いだった。。。

 

「あのさ、入院してからゆっくり話してないじゃない。久しぶりに話したいと思うんだけど、どうかな?」

美咲ちゃん「いいよー。」

 

「入院して調子はどうかな?」

美咲ちゃん「とにかく食べたいの。竜田揚げが食べたいなあ

「そうだよねー。食べたいよねー。竜田揚げかあ、美味しいよねー。」

 

:「入院していることは苦痛じゃない?」

美咲ちゃん:「苦じゃないよ。」

:「 そっかー、苦じゃないんだねー。」

 

そんな話をしながらも、私の緊張は極限状態になっていた。


 でも、話すしかない!パートナーシップを結ぶには、言うしかないのだ!!と心を奮い立たせる私。

 

「あのさ、最初の入院で最後に貰った手紙があったじゃない。あれを読んだ時にね、美咲ちゃんの辛さを一緒にわかってあげられなかったなと思って悲しかったんだ。でね、これからは一緒に辛さを分かち合い、楽しみを分け合いたいんだよね。」


もう途中から完全なる愛の告白です(笑)


「看護師と患者というよりも、人と人として、一心同体・パートナーになりたいんだ。美咲ちゃんは一人じゃないんだよ。」

 

美咲ちゃんは、机に突っ伏してしまった。


私は、美咲ちゃんに嫌な思いをさせたのだろうか?と不安になっていたら・・・

 

美咲ちゃん「感激してるの・・・・・」

 

泣きながらそう言った。


 その後、ゆっくりゆっくりではあるけれど、少しだけ思いを話してくれた。

 

美咲ちゃん「一人だと思ったことはないよ。毎日楽しいから、辛くないよ。私はそんな風に、上手にしゃべれない。自分の気持ちを表現することができないんだ。」

 

そういえば以前、話したり自分の気持ちを書いたりすることが、すごく苦手だと話していたことがあった。自分の気持ちが言葉にできないんだ、と何度も話していた。


最後に、このような機会をもつ頻度はどのくらいがいいか聞いた。

 

美咲ちゃん「どのくらいでもいい。多くていい

 

楽しそうに嬉しそうな感じで話してくれて、私はやっと緊張がほぐれてホッとした。

 

「自分の気持ちを表すことができない」

 という言葉はキーワードの様な気がした。私と面談をする中で、彼女自身が自分の気持ち・思いに気付くことができたら良いのではないか、と思った。時間がかかるだろうけれど、焦らずやっていこうと思った。


そして看護師長に、美咲ちゃんへの告白の結果と今の思いを相談した。

 

看護師長:「美咲ちゃんが自分で自分のパターンに気付くことが大切よ。美咲ちゃんは、自分の思いを表現できないと思い込みがあるんじゃないかしら。誰かに言われた記憶などで。充分に言えているということを伝えること、言えている自分に気付くことも必要じゃないかしら。」


確かに、美咲ちゃんは自分の思いをちゃんと言えていた。今後の面談ではそのことを伝えていこう。


そして美咲ちゃんとの面談が始まった。

 

美咲ちゃんのやりたいこと

「今日は何の話をしようか?今、何かしたいなと思うことある?」

美咲ちゃん「今ね、料理がしたいの

 

「おお、いいねー。何が作りたい?」

美咲ちゃん「お母さんとクッキーを焼きたいんだよね。部活のみんなに食べさせたいの。あとさあ、買い物に行きたい。お腹が大きいから服が入らなくなったんだけど。お母さんと買い物に行きたいなー。」

 

会話の中で、今の辛いことは足がむくむこと(動けない)、お腹が大きいこと(服が入らない)だと話したが、病気に関わる話をする時はあまり話したくなさそうで、距離・溝があるような感じがした。

 

料理の話などは、美咲ちゃんが自ら話し、生き生きとした顔で話していた。


この面談を通して、美咲ちゃんが一番話したかったことは、病気や身体の辛いことじゃなくて、楽しい日々のことを話したかったんだと思った。本当に楽しそうに生き生きと話していたから。

 

美咲ちゃんの祖母が立て続けになくなり、美咲ちゃんの足がむくんだ時に「おばあちゃんみたい」といった言葉が以前聞かれた。その時の真意はどうだったのだろうか。美咲ちゃんは、おばあちゃんが亡くなった時、何を思ったのか。ということを知りたいように思ったけれど、それは「私が知りたいこと」であり、「美咲ちゃんが話したいこと」ではないと思った。「美咲ちゃんが今話したいこと」を聞くこと、その気持ちを応援することが、寄り添うことだから。


色んな経験をした今なら「おばあちゃんみたい」と言った時に、どんな思いで言ったのか掘り下げることをしたなあと思う。患者さんが大事な言葉を発した時に逃さないことの大切さを思い知ったから。

 

美咲ちゃんのお母さんは、小学校の教師をしている。


職場の人は、今日は早く帰れるように等の配慮はしてくれるけれど、お母さんの支えになる人がいないことが気がかりだった。お父さんは、仕事が忙しく、出張も多くなかなか話をする時間すら取れない。


「お母さん、周りの人の中で思いのはけ口になってくれる人はいますか?」

お母さん「いないんです・・・」

 

「今は私が思いのはけ口になるので、何でも話してください。だけど、退院したら話せなくなるから、一人でも話せる人がいると良いんですけどね。」

お母さん「そうですね。話すことで楽になれる部分があります。」

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