看取りのプロが伝える 「生きる」とは?  ~私に最も「生きる」を教えてくれた末期癌の女子高生の話~後編

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前話: 看取りのプロが伝える 「生きる」とは?  ~私に最も「生きる」を教えてくれた末期癌の女子高生の話~中編


ある研修に参加していた時に、突然答えが降ってきた!!


私との面接は2回だけだったけど意味があったと思えた。面接の中で美咲ちゃんは、「今したいこと」を楽しそうに考えながら話していた。

 

話す中で、美咲ちゃんが今後やりたいことを自分で見出した。そして実現させた

 

美咲ちゃんがしたいこと、それは家でお母さんと過ごすことだった。今から確認できないから、本当の所はわからないけれど、家族と日常を過ごすことが「美咲ちゃんの生きる意味」だったんだと思った。

 

20年近く経過した今思うこと

美咲ちゃんと出会ったことで「生きること」を教えてもらった。

 

生きることは、何か「特別なこと」をするのではなく、自分が「やりたいこと」をやること。


「やりたいこと」とは、大きな夢や大きな目標達成だけではなくて、日常に散りばめられている小さな小さなことを「やりたいこと」だと自分が「認識する」こと。

 

 例えば、朝起きて深呼吸することや、友達とケーキを食べること。これって、何となく過ごしていたら流れていく日常。


だけど、「私は朝起きて深呼吸したい」「私は友達とケーキを食べたい」と自らの願いを認識して過ごすこと。そして、1つ1つ出来たことを喜ぶことが「生きるを楽しむこと」だと教えてもらった。

 

 やりたいことを認識するには、自分の中で考えるよりも誰かに問いかけられた時に願いに気付くことが多い。


 「今、何をしたい?」


 「何をしているのが楽しい?」


だから私は、出逢った患者さんたちの日常を「何となく過ごす」のではなく、

日常を「やりたいこと」として意識して過ごすこと、それこそが生きることであり、夢を叶えることなんだ

と伝えてきたように思う。

 

そのために、「今何をしたいのか」「何が好きなのか」の問いを投げかけてきた。

 

私が問いを投げかけた時、患者さん達は遠い目をして何かを思い出すように考える。そして自分でもそんな願いがあったことに驚きながら答えてくれるのだった。私はその答えをどうやったら実現できるのかを考え、家族みんなを巻き込んで実現させてきた。


だから、美咲ちゃんは私が出会ってきた沢山の患者さん達を救ってきたことになる。

 

そしてもう一つ。


美咲ちゃんとの関わりから教えてもらったことがある。


自分の大切な人に対して、人は「何かをしたい」「役に立ちたい」と強く思う。私も担当看護師として美咲ちゃんの助けになりたい、役に立ちたいと必死だった。

 

だけど、看護師長からの助言や、その後の沢山の看取りの経験から「何かをする」ことよりも、「寄り添うこと、味方でいること」が大切な人にとって、一番助けになること、役に立つことなんだと実感した。そしてそのことが、大切な人が一番喜ぶことだった。

 

私は美咲ちゃんに何かをしたのではなく、いつも味方でいた。彼女がやりたいことを全力で応援した。話を全力で受け止めた。存在を丸ごと受け止め寄り添った。


彼女の存在に「寄り添い、味方でいる」。私がやったことは、それだけ。でも、その中で美咲ちゃんは「家で過ごしたい」「お母さんと過ごしたい」と自分の力で願いを見つけ、その思いを本当に実現させた。美咲ちゃんの強い気持ちと、彼女の気持ちを全面的に応援してくれる家族や病院スタッフの存在があったからこそ実現出来たのだと思う。

 

訪問看護をしていた時、看護師やヘルパーに介護を手伝ってもらいながらと言っても、ご家族が24時間付き添っている。そんな中、ご家族から何度となく言われた言葉がある。


「何も出来なくて、辛いんです・・・・」


ご家族は、プロの看護師やヘルパーのようにケアが出来ないこと、医師のように治療が出来ないことで何も出来ないと、自分を責めていることが多い。


そんな時、私は必ず声をかけていた。

 

「何かをすることはプロの仕事です。

あなたの仕事は、側にいて寄り添うこと。

何かをすることじゃなくて、ただ側にいることが一番大事で、それは誰にも出来ないことなんですよ。」

 

「だから、あなたはもうすでに十分出来ているんですよ。患者さんが一番喜ぶことを十分しているんですよ。」

 

側にいることや寄り添うことって、料理を作るとか、身体を拭くとか実際に目に見える行動ではないから、出来ていると実感が持てないことが多いのだけど、実は、最も大切なことなんだと思う。

 

美咲ちゃんから教えてもらったことは、他にも沢山あるけれど、

 

①生きることは、何か「特別なこと」をするのではなく、自分が「やりたいこと」を認識した上でやること。

②「何かをする」ことよりも、「寄り添うこと、味方でいること」が大切な人にとって、一番助けになること

 

この2つが本当に大きかった。美咲ちゃんが人生を賭けて私に教えてくれたこと。

 

「美咲ちゃんが自分の生まれた意味自分の人生について考える必要がある。美咲ちゃんの生きる意味とは?」

 

この看護師長からの問い。今となっては、美咲ちゃんが自分の生まれた意味や自分の人生について考えたのかはわからないけれど。

 

「美咲ちゃんの生きる意味とは?」

 

今ようやく自信を持って答えることが出来る。

 

美咲ちゃんがこの世に存在したこと、私の心に存在し今も生き続けていること、それこそが彼女の生きる意味だったと思う。


人間は、存在しただけで十分だった。

 

美咲ちゃん、出会ってくれてありがとう。あちらの世で再会したらまた、沢山おしゃべりしようね。


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