安本豊360℃ 歌に憧れたサッカー少年 Vol.37「ソロシンガー」

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2017年に活動休止宣言を配信した時点で、やがて訪れる豊のソロ活動を支援しようという人物が現れた。


彼らは、2nd LEGの豊とソロで歌う豊を、別のものだと分けて考えてくれており、ソロシンガー安本豊のCDを出す話も、チキンジョージ2nd  LEGラストワンマンライブ以前に浮上していた。


そんな情報が、いったいどこから漏れたのか、豊がソロ活動をしたいために、2nd LEGの活動を休止するように仕向けた といった誤解が駆け巡り、豊が一身に「悪役」を担うという局面もあった。


そんな時も、支援者の存在は、多分に豊の気持ちの助けになっていた。


おそらく、豊に未来への希望を見せてくれる彼らの存在がなかったら、豊はあのつらい時期を乗り越えられなかったかもしれない。

 



3月のあの日、礼央と分かれてからの豊は、僕が見ていても辛くなるほど孤独だった。


それまでのように定期的に人に会うということが全くなくなり、自分の歌を聴いてもらえる場所もなくなった。


豊の音楽を聞いてくれる人からのフィードバックがあって、豊は自分の位置を確認できていたのだが、触角を失くした虫のように、孤独は豊を迷わせていった。


何も見えず、自らが今、何をしているのかさえ分からない中、それでも、企画に上ったCDを作成するために、豊はひたすら自分の音を作り続けた。


「今、自分を作られへんかったら、ユニットなんか組まれへん。」


豊は、懸命に自分自身を保とうとしていた。



 

豊は、ソロ活動を支援してくれる彼らを信頼していた。


今は少しつらいけれど、2018年の年末くらいまでの1年間は、豊の活動を制限して、集客が散漫しないように、ライブを乱発しないでおこう、という彼らのアドバイスを受け取って、大阪と地元明石での2か所のライブに絞った。


本当は、大阪1か所だけで、という提案だったが、豊のたっての希望で、地元のライブを認めてもらった、といった感じだった。


大阪でのライブは、プロモーター向けのオーディション的な位置づけだったので、豊は、なんでもなく純粋に豊の歌を楽しんでくれるお客さんとの時間を持ちたいと願ったのだった。


それがあってようやく、豊は触角を取り戻せる。

 



豊は、後輩ミュージシャンの繋がりで、自宅近くにあるTree Topという喫茶店を紹介してもらった。


喫茶店ではあるが、さまざまなイベントを催していて、多くの地元ミュージシャンたちが集まっている店だった。


3月末、2nd LEG最後のワンマンライブを終えた約10日後、豊はTree Topで、マンスリーライブを始めることになった。


大阪と明石、どちらも同じ「アンテナ」というタイトルで、半年間という約束だった。


アンテナを張って、外からの情報を捕まえよう…という意図だった。


月に2回だけのライブが、豊と外の世界を繋いでいた。

 



20189月になって、当初の約束だった「アンテナ」の最終回が訪れた。


夏には完成するかと思われていたCDの製作は遅々として進まず、状況は豊の期待するスピードで展開されないまま、心は曇り空に覆われた気分だった。


それでも、Tree Topでのライブは、お客さんから直接フィードバックをもらえる貴重な場だったし、豊が心から自由に歌える時間だったので、続けていきたいと思っていた。

 



半年間、回数は、極端に少なくなったが、一人でライブを続けている間、豊は何度となく礼央と演奏していた2nd  LEGを思い返した。


後悔とか未練とか、そんな類のことではない。


恵まれていたことへの感謝と未来への課題…そういった前向きな思いだった。


2nd LEGのライブでは、お互いに2人でやっているということによりかかっていたよなぁ…。


ライブMCも演奏も2人いると間が持つ。


ライブ圧力も2人の方が強かった。


1人が0.5人分の仕事しかしてなかったんや…そんなことに気がついた。


ありがとう、本当に大切な時間だった…豊は思い返すたびに、心の中で深々と頭を下げた。


やがて2人が違う海を泳ぎ切りお互いに一回り二回り、大きくなった時に、一緒に飲む酒はこの上なく美味しいだろう、そう思うと、豊はまた顔をあげられた。

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