【第三話】ふいにおとずれた一筋の光

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私がスマホ依存の実態を知ることに大きな抵抗があるもう一つの大きな理由…

それは息子の存在である。

はじめに伝えた通り、私にはもうすぐ2歳になる息子がいる。

息子が最近私たち両親や祖父母の顔を見たとたん、必ずと言っていいほど発する言葉がある。

それは、「ブーブー!」

「車が好きなんだね!」

「車で遊びたいんじゃない?」

と思われた方も多いだろう。

それがリアルな車のおもちゃを想像しているのであれば残念ながらハズレ。

この場合の息子の「ブーブー」は、

「今すぐその持っているスマホでYouTubeを流し、車の映像をぼくに見せろ」

ということを意味している。

「そんなのうちの子もそうよ」

「どこの家もそんなもんじゃない?」

同じ子を持つ親はそんな風に思うだろうか。

でも私は、最近この息子の様子を見ていて、私なんかよりもずっとずっとスマホへの依存度が高いのではないかととても心配している。

YouTubeの映像が少しでもストップすると泣きわめき、大人のもとにスマホを持ってくる。

他のもので遊んでいるからと、YouTubeをストップしスマホを片付けようとすると、すぐさま気づいて怒り出す。

夜もYouTubeを見ながら眠りにつき、ふと夜中に目が覚めた時にも「ブーブー!」

朝目覚めて一言目にも「ブーブー!」

YouTubeが流れているスマホを息子に渡すと、一歳の息子は驚くほどに巧みにスマホを操る。

流れている動画が気に食わなければすぐさまスワイプしてオススメ動画の一覧を出し、次の動画をタップ。

自分の好きな動画が見つかるまで、その小さな人差し指で何度も何度もスワイプとタップを繰り返す。

まだこの世に生まれて2年も経っていないこの息子の小さな脳の中で、今どんなことが起こっているのだろうか。

このままこの子が大人になると、どんな人生が待っているのだろうか。

ふとそんなことを考えると、とても恐ろしい気持ちになることがある。

「じゃぁ見せなければいいじゃない」

そう言われることも重々わかっている。

ただ、もし「ブーブー」を見せなければ、息子は延々と泣きわめき、床に頭を打ちつけ、ご飯も食べてくれない。

その状態の息子に、「YouTubeを見せない」と言う選択をする心の余裕が、残念ながら今の私にはまだない。

もちろん「30分たったら終わりね」など時間を制限する言葉もまだ2歳にも満たない息子には伝わらない。

もちろん今私が、「YouTube」という、とても楽しく、そしてとても恐ろしい世界を幼い息子に教えてしまったことを非常に後悔していることは、言うまでもない。

ただ、平日の夜のワンオペ育児の時間には、私もなかなか息子につきっきりにはなれない。

そのため、YouTubeに夢中になってくれている時間にはとても助かっていることも紛れもない事実だ。

もしYouTubeがなかったら、今頃私は産後うつになっていたかもしれない…

ふとそんなことが頭をよぎることもある。

スマホはきっと使い手によって、天使にも悪魔にもなる存在なのだろう。

上手に付き合うことができれば、とても頼りになるパートナーとなるが、あまりにも深い関係になりすぎる事は、その先に大きな危険を秘めている。

今どう見ても、息子とスマホの関係は深くなりすぎているように感じる。

ただ幸運なことに、近所の保育園にたまたま空きがあり、平日は強制的にスマホやテレビのない環境でお友達と一緒に過ごしている事は心から良かったと思う。

これまで、

「平日の昼間は息子もがんばっているし、夜の少しの時間や土日くらい別にいいじゃん」

「おばあちゃんに抱っこしてもらいながらYouTubeを一緒に見るのは、触れ合いが増えるのでいいことだよね」

という、自分に都合の良い勝手な解釈で、自らの精神衛生を守ってきた。

それが、これから私はスマホ依存に関する専門家の本を読み、真実を知ってしまうことになる。

それはつまり、私は幸せを願ってやまないはずの息子の人生を狂わせる原因の根っこを形作っている犯人は、紛れもなく私たち両親や祖父母であるということを知ってしまうことを意味するのではないだろうか。

それを知った瞬間から、泣きわめく息子から必死でスマホを切り離すことが、果たして本当に息子にとっての幸せなのだろうか。

それとも、その真実を知りながらも、スマホに夢中になりつづける息子を黙って見守ることを選ぶのか?

それは例えてみるならば、毒が入っていると知っている料理を息子が美味しそうに食べる姿を、ただただ見守ることしかできないようなものなのではないだろうか。

そんな胸が張り裂けそうな思いを抱きながら、私はこれからYouTubeを見続ける息子を眺めていくことになるのだろうか。

なんてことを思いふけっていると、なんだかとても疲れてきた。

私はここで筆を置き、気晴らしに街の中心部へと出かけた。

あまりなじみのない建物の中をフラフラしていると、

「男女共同参画センターライブラリー室4階」

と書いてある看板が目に飛び込んできた。

「へぇーこんなところにも小さな図書館があったのか。どれどれ?」

と、私は興味本位で4階まで足を運んだ。

ライブラリー室に入った瞬間私はつぶやいた。

「古っ…」

年季の入った古本屋と同じあの独特の香りの中に、色あせた本たちが所せましと並べられている。

「映像コーナー」と書かれた店の中には、たくさんのビデオと少しのDVD。

この空間にいると、まるでDVDがVRのような最新機器のようにさえ見えてくる。

その部屋に並べられた本たちをボーっと眺めていると、他の本よりも明らかに新しい様子の一冊の本が目に入った。

私はふとその本を手にとった。

まさかこの時は、ここで出会ったこの1冊の本が、うじうじと悩み続ける私の背中を大きく押してくれることになるなんて、夢にも思っていなかった。

ーつづくー

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【第四話】化けの皮が剥がされ丸裸になった心

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