【12】痛みと温度が同居した日 ~やわらかな時間と沈黙~

前話: 【11】痛みと温度が同居した日 ~大すきで大きらいを知る~
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風邪をひいていた猫は1週間の入院で すっかり元気になって
帰ったその夜は いつものように わたしの寝るベッドの中へもぐりこんできた。
猫の肉球はとても やわらかくて 心地よい。

元気になった猫を眺めながら それに触れていたら
いつの間にか一緒に寝てしまったようだった。



その夜 夢を見た。


こころがザワつくのは 気のせい
そう言い聞かせて クリスマスの街をあるいた。
正確には仕事の帰り道。

街は おもちゃ箱をひっくり返したような賑わいだった。

知らない顔と なんどもすれ違う内に
わたしの大すきで大きらいな彼を探している自分に気づいた。
こんな雑踏で 大きな街ですれ違うなんて とても確率の低いことなのに・・・
どこかで出逢える願いを捨てきれなかった。

街の真ん中には大きなクリスマスツリーがあって
そこに居たら 彼が自分をみつけてくれるような気がして
小さく座り込んだ。そのわたしは 少女だったと思う。

夜だったけれど イルミネーションがキラキラしていたから
昼間の様な明るさと 色がそこにはあって
ザワついたこころを隠すには ちょうど良かった。


動いていないわたしなのに
目の前の景色がどんどん変わっていくのを見ながら

色々がわからなくなった。

自分がいることの意味も 動く景色も何もかもは
もしかして 幻なのかもしれない って思った。

夢の中で夢だと認識できていたら どんなに楽しいだろう。

その幻さえも まるで冒険を楽しむようにいれたかもしれない。
まるで現実を投影するかのような その夢。


その夜は いつもより
しあわせになりたい自分が居たのだと思います。
いつもより やさしいキモチになりたい自分が・・・・

その隙間には ほんの少しの寂しさがあって
それは いつも本音の一歩手前をくりかえしてきたせい。


目が覚めたら なんて言おう。
夢の中でそう思った。


猫の肉球にふれていた手に温度を感じた。
それは ひと肌だった。

目を開けると カーテンの外は明るかった。
そこには彼のやさしい顔があって こっちを見てた。



こころの真ん中で ちゃんと見てくれているのが わかった。
そのやさしい顔を見て かなわないな、って思った。


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