ペットボトルのお茶(短編小説)

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  「疲れている時ほど、したくなるよね」






ね、ことねは、聴いてた?
と、睦月(むつき)ちゃんから笑顔で話しかけられたとき、私は昨日の仕事の失敗を思い出していて、どうやって回避しようか悩んでいたので、聴いていなかった。

 「したくなるってキスとかハグとか?」
私が切り返すと
私の顔をしたり顔でニヤニヤみつめながら、彼女は堪えきれずに笑う。

 「まだ、したことないんでしょ?もうハタチじゃない?そんなお固くならずにぱぱっと済ませよ」

 なにを、言われたのか理解して、耳まで紅くなる。


みんな彼氏が高校生のときに出来て、一通り経験していて、私だけ彼氏もいないし、そういう恋人同士のことは、したことが無かった。

 相手がいないんだから、仕方ないのに。

 腑に落ちない表情をしていたんだと思う。睦月と違って彼氏がいても、話題選びや場の雰囲気を壊さない、絵里奈が、私の肩を叩く。

「気にしなくていいからね。自分のペースで。ほんと、下世話なんだから睦月。ことねは、いいのよ。大丈夫、大丈夫」


 絵里奈は、私より背が高く、モデルのようにスレンダーで大人っぽい。
 彼氏ももう3年付き合っていて、高卒で仕事もしているので大人びていた。


 「私はするの、好きじゃないな。良くなればいいっていうけど。まだまだなんですかね!ってこういうの聞いてるから耳ダンボというか、ことね、だんだん恋人つくるのも怖くなってるよね」

そうなのだ。

周りがリアルに実体験を話す。 
彼氏さんは知らないのだろう。女子は赤裸々に仲良し同士だと話すこともあるのだということ。

 もちろん、彼氏が恥ずかしいだろうと言わない口の固い彼女さんもいるから、全員とはいわないけど。

 私は地味だし、大人しいし、彼氏も出来ないと思っていた。

 梅雨になって、毎日雨の日がうっとおしい季節。
6月になって

私は飲み会の女子の人数が足りないとかで、同期衛生士の合コンのような飲み会に参加していた。

 そこで、やたらと陽気な
明るくて元気な21歳の大学生。
雰囲気がどことなくジャニーズ系で、メンバーの女の子たちがみんな群がっている。
 まず、相手にされない、のは、わかるので、適当に相槌をうって、時間をみて抜け出して帰ろう、とした。

 そしたら

「ことねちゃん、帰るの?俺も帰る。送っていくよ」

とあの、1番みんなから人気のある男の子が追いかけてきたので、
「いえ!大丈夫です!1人で帰れます!子どもじゃないんで!」
と真顔で焦りながらいうと

「いや、女の子だからさ、夜道危ないでしょ。大丈夫、近くまで送るだけだから」

と爽やかな笑顔でいうので
優しいひとなんだなぁ、と送って貰うことに。

そしたら

「ね?どこ?おうち、俺さ、家が電車で1時間かかるんだよねぇ。もう、遅いじゃん?泊めてよ」

と言ってきた、ので

「え?!いや、泊められないです!」
「大丈夫、大丈夫なにもしないから」と

家の近くまで着いてくる。

 ・・・どこかで帰らせるか、私がコンビニとか逃げ込むか、いや本当に困ってるのかもしれない、けど

 ・・・こわい。

「初めて、じゃないでしょ?飲み会、だから、まあ、こーゆーこともわかるよね?」と
言ってくる。

わかりません、こーゆーこととは?

 「一晩くらい、俺と遊んでも」


・・・頭の中でサイレンが鳴る。

やばいやばいやばいやばいやばい!!!!
なんで私なの!他にたくさん女の子いたのに、なんで私なの!私なら簡単にやれると思われたの?!

「い、いやです!あの帰ってくださ・・・」

「うっせえな。大人しそうだからめんどくさくないかと思ったけど、ほら、どこなんだよ、家!」

相手の男性が豹変し、目付きが、眼光が凄い。

 さっきまでの明るい青年が、消えていなくなる。

「や、やだ、やだあああ!!助けてください!!!」


その叫び声で、家の近くのコンビニの前にいた、サラリーマンのオジサンが

「なにしてるんだ!嫌がってるじゃないか!」

「ちっ!めんどくせえな!ブス!」


そう言われて、そのジャニーズ系の男の子は、捨て台詞を吐いて消えた。

 心臓が、動悸が、激しくて、呼吸が、呼吸の仕方が。

 「大丈夫か?君もよく声出したね。気をつけなさい。」

 そういって、私が落ち着いたのをみてから、紳士なオジサンは、私にペットボトルのお茶をくれた。

 「あげるよ。・・・私にも娘がいるけど、君くらいの。気をつけるんだ、男には。あと、顔をあげなさい、女の子はみんな可愛いんだから」


  私は、ジャニーズ系の男の子より

その自分のお父さんくらいのサラリーマンさんの言葉にドキッとして、しまい、大人の男性って、カッコイイな、と

 祖父とか父親が好きなファザコンだからかもしれないけれど。

 End

 

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