訪問歯科の患者さんとの年賀状のやり取りの話。

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   私が30歳の時、あれは10年前だ。




訪問歯科をしていて、結婚を控えていた私は、仕事を辞めようとしていた。

  訪問歯科は、悪阻が酷くても休めないし、正社員の勤務時間も長い。

 中でも、私と同じ福島県の地元から都内の娘さんのところへ避難してきた
83歳のおばあちゃん。
   コルセットをつけ、寝たきりで

弱々しく、いつも訪れると、私やドクターと話すのを嬉しそうに楽しみにしてくれていた。

  訪問歯科は、3Kで
汚い、きつい、くさいで
   新人歯科衛生士が直ぐに辞める。

ただ、根気よく仕事をすると、患者さんとも家族のように仲良くなれる。

『館花さん、と話すと面白い。来週もまた来てくださいね』

 口腔ケアをすると、口の中を綺麗にして
日に日に元気になり、食べられるようになり

  私が退職する頃には、立ち上がり
歯科医院に通えるようになり
   地元、福島県へ戻って行った。

 仕事を辞める時、院長先生に個人的に患者さんとやり取りすることは、ダメだと言われていたが

 あまりにも患者さんが院長先生にも言ったので、年賀状のやり取りだけ、許して貰えた。

 患者さんの娘さんは、子どもがいなかったので、私に長男が生まれた時、ランチに誘って、私の息子を抱いてもらった。

  とても喜んでくれた。

 福島県に戻った患者さんのことを、娘さんから毎年、ハガキを貰う。

 そのうち、ハガキが来なくなる、と思った。

  ところが、毎年、毎年
  それは続いた。

 私が年賀状を辞めてLINEなどに統一したときも

 毎年、届いた。
  ・・・今年は。

  ありがとう、毎年、毎年
私のことを覚えてくれていて。

  私もとても嬉しかったです。
  『私なんてもういつ死んでもおかしくないんですよ』って

  言っていたのに
 10年も、あれから生きましたね。
   私も、毎年、嬉しかったですよ
  年賀状。
   どうか安らかに。コロナじゃなくて 寿命で亡くなられた、ようで
    ゆっくり、おやすみくださいませ



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#担当患者
#年賀状のやりとり
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