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はじめに:若いビジネスパーソンや、スタートアップ経営者に、伝えたいことがあります。

約束を果たせなかったMさんへ、そして30歳の頃の自分自身へ

大昔、僕が学生時代に新宿の飲み屋でアルバイトをしていた時、常連客の一人に某出版社のMさんという編集者がいました。

林真理子さんのデビュー作「ルンルンを買っておうちに帰ろう」を世に送り出すなど、多くのヒット書籍を手掛けた天才編集者でした。

Mさんは毎週その酒場に登場し、カウンターを挟んで、僕に酒の飲み方から原稿の書き方、女の子の口説き方まで教えてくれました。それ以来ずっと飲み会や麻雀、ゴルフに誘ってもらい、長い間公私共にたいへんお世話になった先輩だったのです。

40代後半の頃、Mさんは出版社を退職し、自分の出版社を立ち上げます。そして新しい月刊誌を創刊しました。加藤和彦さんや渡辺和博さんを初めとする同志や、出版社時代の厚い人脈で書き手を揃え、それは見事な雑誌を作っていました。

ある時、Mさんから飲み屋に誘われました。Mさんは刷り上がったばかりの創刊号を手に、今後の特集の予定についてたくさん語ってくれました。そんな夢のような話を心地よく聞いていた時、Mさんがポツリと言いました。

「ところでさ、資金繰表の作り方、教えてくれないか」

僕はかなり驚きました。出版事業には多額のお金がかかります。広告収入はそれなりにあったと思いますが、雑誌は売れなければ不良在庫となり、資金繰りを圧迫します。そんなことはMさんも百も承知のはずです。

数日後、Mさんの事務所を訪ねました。資金繰表のフォーマットを説明し始めたのですが、Mさんはすぐに飽きてしまい、またいつもの夢のある雑談に興じて時間が過ぎていきました。

結局、新雑誌は3号まで発行したあと、休刊になりました。さすがのMさんも、ひどく落ち込んでいました。何度も相談の電話がかかってきましたが、慰めの言葉もありませんでした。

そして、同志であった加藤和彦さんが軽井沢のホテルで亡くなった数ヵ月後、Mさんも後を追うように逝ってしまいました。

僕は、ただただ無力感に襲われました。もっと自分にできることがあったのではないか。そんな後悔がずっと続いたのです。

それから長い時間が流れました。

この連載を始めようと思ったのは、若いビジネスパーソンの皆さんに、仕事や会社経営で失敗しないコツのようなものを体系的に伝えたいと思ったからです。ある時本棚を整理していて、Mさんが手掛けた書籍を懐かしく読み耽ったからでもあります。

会社経営についての僕自身の知見は微々たるものですが、長くやっていると、ここが重要だという仕事のツボがわかってきます。それを若いビジネスパーソンや、スタートアップの経営者にわかりやすく伝えたいと思います。移動時間にサクッと読めて、何某かの気付きがあり、仕事や企業経営に向かっていく後押しになれば、と願っています。

些少な課金制にしておりますが、もしご興味がありましたらお付き合いいただけると幸いです。

●第1回:PLは通信簿、BSは健康診断書。

●第2回:PLとBSは、当期利益という連結器でつながっている。

●第3回:「出前館」は売上高よりも赤字額が大きいと予測されたのに、何故つぶれない?

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