出張整体師はみた! 二重オートロックの悲劇

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あるタワーマンションのお宅に伺った時のお話
でございます。ここ数年、増えてまいりました
二重オートロック物件が今回の舞台でございます。
その名の通りオートロックのインターホンで
二段階解錠していただいて訪問することになります。
登場当初は
「防犯事情はここまできたか・・・・」
と大層驚いたものでございます。
この日は夕方の早い時間に、定期的に伺っている
お宅への訪問でございました。
いつも通り第一関門ドアを開けていただき中へと
進みます。
途中にあるコンシェルジュで受付をされている
お姉さんにご挨拶をして、第二関門のインターホン
に向かいました。
特に問題なくこちらも開けていただき、
エレベーターホールに着きました。
そのすぐ後に難しい顔をして俯いている小学校中学年位の
お嬢ちゃんがエレベーターホールに来て到着を
待っていました。
いつもより少々長めの待ち時間の後、エレベーターが
到着しました。
そのお嬢ちゃんは、最上階付近の階を指す行き先ボタンを
押してエレベーターの奥に立ちました・。
小生の訪問先はその数階下の階でございましたので、
行き先階のボタンを押して、エレベーターの扉付近
に立ちました。扉が締まり、いよいよ出発です。
エレベーターが動き出して気が付いたのですが、
そのお嬢ちゃん、そわそわとした落ち着かない
様子です。

「見知らぬおじさんとエレベーターで二人きりで
警戒されているのかな・・・」

と少しばかり悲しい気分になりましたが、
「昨今の様々な事情を考えたら仕方ないか・・・」
と納得しようと自分に言い聞かせました。
しかし、警戒されているというのには、
どうも様子が違う気がします。
数秒後にはパタパタと小さな音が聞こえてきました。
それとなく体の向きを傾けて、横目で後ろをうかがって
みたら、苦しそうな顔で小さな足踏みをしています。

もしかして・・・

この二重オートロックのマンションは、第一関門と
第二関門の間に男女共用のトイレがございます。
小生も時々お借りしておりました。
その日は、小生が付近を通る前を歩いていた配送員風の
お兄さんが駆け込んでおりました。
ここまで申し上げたらお察しが付く方もいらっしゃる
かもしれません。
そのトイレは男女共用のタイプ一つしかございません。
建物周辺の敷地が広いそのマンションでトイレを我慢
してやっと辿り着いたのにすでに先客がいた・・・
あくまでも小生の勝手な推測にすぎませんが、
様子を見る限り間違いなさそうでございます。
やっと辿り着いたトイレが先約がいて使えない・・・
大人でも肉体的にも精神的にも厳しい状況でございます。
気の毒に思いましてもエレベーターを加速する事は
出来ません。
幸い一階からの昇りエレベーターに乗っているのは、
そのお嬢ちゃんと小生だけですので、

「あとちょっとの我慢だよ」
と、申したりはせず、ご無事を祈っておりました。
ところが、あと10階程の所でエレベーターが停止致しました。

「??」
お嬢ちゃんは勿論、小生も事態が飲み込めません。
停止して開いた扉の前には、お嬢ちゃんと同年代くらいの
男の子が立っており、
「エレベーター来ちゃったよ!早く来いよ!」
と遅れてきているであろうお友達に向かって呼んでおります。
しかし
「ちょっとまってー」
と言う返事は聞こえますがやって来る気配はございません。
マンション内のお友達の家から家への移動でございましょうか。

横目でお嬢ちゃんの様子を伺うと、足踏みを我慢しながら
今にも泣き出しそうな苦しそうな顔をしております。

「急ぐから次(のエレベーター)にしてね。」
と少々強めの口調で坊やに言いながら閉ボタンを押しました。

「あ・・・はい」
と坊やはあっけにとられておりました。
坊やには少しかわいそうな気もしましたが、詳しく説明する
余裕もございませんし、お嬢ちゃんも同年代の男の子に
知られたくもないだろうと判断しました。
その後すぐに小生の訪問先の階に着き、エレベーターを
降りながら閉めるボタンを押しました。

締まりかける扉の奥から

「ありがとう。さようなら。」
という声が聞こえました。
振り返ると、お嬢ちゃんが引き攣りながらも笑顔を作って
おりました辛いだろうに気丈なものでございます。
ご無事を祈ったのは言うまでもございません。

着いたと思ったところからのもう一我慢は地獄
というのを人事ながら勉強させていただきました。

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