第5話 (後編)アフリカへ行く彼から学んだこと【少し不思議な力を持った双子の姉妹が、600ドルとアメリカまでの片道切符だけを持って、"人生をかけた実験の旅"に出たおはなし】

2 / 7 ページ

前話: 第4話(前編)アフリカへ行く彼から学んだ"生きる"こと【少し不思議な力を持った双子の姉妹が、600ドルとアメリカまでの片道切符だけを持って、"人生をかけた実験の旅"に出たおはなし】
次話: 第6話 ワクワクで生きる。【少し不思議な力を持った双子の姉妹が、600ドルとアメリカまでの片道切符だけを持って、"人生をかけた実験の旅"に出たおはなし】

よかった!!笑顔はいつものけんちゃんだ。歯白すぎだけど!



けんちゃんの笑顔が、一気にあの夏に戻してくれた。

急に日常ではないところに連れて行かれてしまった。


また胸の奥がワクワク震えていた。

あの不思議な最高の日常がやってくる合図だった。



maho
けんちゃん!!!おかえり!!!



そして真っ黒なけんちゃんに、大きな大きなハグをした。



パンチの効いた経験



たまたまバイト先が私のアパートの近くということもあって、帰国してからは二人で過ごす時間が多くなった。



それからあまり時間がたたないうちに私たちは付き合うことになった。



しかしそのけんちゃんとの"付き合う"というのが、相当パンチの効いた経験となる。

そう、彼は想像以上にかなーーり変わっていたのだ!

だけど私にかけがえない沢山の大事な事を教えてくれた。



けんちゃんが教えてくれたこと



けんちゃんは実家暮らしだったのもあり、恵比寿の一人暮らしの私のアパートに転がりこんできた。

そして彼の価値観は、私と、いや世間とイイ意味でかなりズレていた



まずあまり"自分のもの"という概念がなかった。

だから何でも人とシェアして分け合ってしまう。


一番驚いたのは、けんちゃんが短期のバイトで1週間ほどみっちり働いた時だ。

けんちゃんはその時とてもお金がなくて、普通なら電車で行くような距離を、電車代を浮かせるべく私のミニチャリで通勤していたほどだった。


お給料日になると、手渡しだったらしく10万前後入った茶色い封筒を嬉しそうに見せてくれた。


けんちゃん
まほ!みてや!結構もらったで~。なかなかしんどかったわー。


けんちゃんはごそごそと封筒の中身を確認すると


けんちゃん
ほな、半分こ!


と、目の前でお札を綺麗に半分に分けて私に渡した。



????


私はよく状況がわからなくて、目が点になっていた。


え?!なんで!?けんちゃんが働いたやつやし、もらえんよ!
けんちゃん
????


けんちゃんもきょとんとした顔をしている。


もらっときもらっときー!部屋もシェアしてるんやんか。これもシェアしようや!まほもお金ないんやし、おんなじやんか。


といってにかっと笑った。



他にも、携帯電話に知らない同じ番号からやたら着信があるときがあった。

気になって聞いてみると


けんちゃん
あー!この人な、タイであったおっさんなんよ。


けんちゃん
このおっさん怪しくてな〜、もうジイさんなんやけどな。
タイで泊まろうとしてた安宿で、オーナーとモメとったんよ。おっさん長期滞在してたみたいなんやけどお金払えんくなって追い出されそうになっとったんよ〜。あははあほやろ〜!



けんちゃんはその怪しいおっさんが宿から追い出されるのを見かねて、

結局宿代を全部肩代わりしてあげたのだだった。

そして当の本人は安宿に泊まるお金もなくなってしまい、野宿して過ごすことになったらしい。



けんちゃん
宿なくてさ、キャンプ道具も持ってなかったけん寝れる場所ひたすら探すんよ。公園とかマックとか。夜のタイの街を歩き回ってさ。
けんちゃん
ほんとな、人間眠りたいときに安全な寝床がないって、これほど辛いことはないで〜。
これは体験せな分からん。


と言いつつも、いつも笑っていた。

結局その怪しいおっさんは実は倒産してしまった大きな会社の社長さんで、

そのあと日本に帰ってきてきちんとお礼がしたいと言う電話だった。なんてミラクル!!



けんちゃん
まほ、お金もごはんも物もな、シェアして分け合ったら本当は貧乏な人とかお腹が空いた人とかおらんくなるはずなんやで。人は分け合って生きていけばいいんや。


と言ったあと、ヘラヘラ笑う。だけどけんちゃんの真っ直ぐな言葉は説得力があった。

そしてケチな私は、そんなけんちゃんの素晴らしいシェア精神にドカリとのっかり、いつももらってばかりであった。


今を楽しむこと


その時私は専門学校生で、毎日授業のこと、課題のこと就職のことで頭がいっぱいだった。

いつしか私の口癖は、


maho
忙しい!忙しい!


と、しがないサラリーマンのようになってしまっていた。

そんな私に、けんちゃんはよくお弁当を作って学校の近くまで届けてくれた。


そんなある日、お弁当を持って前からやって来るけんちゃんの様子がなんだかおかしい。お弁当が大きすぎるのだ。

よくよく見てみると、持っていたのはお弁当ではなく炊飯ジャーだった。

しかも左手にはちゃっかり茶碗も持参。


けんちゃん
お~!まほ!ごめんな~!今日寝坊してしまったわ~!白ご飯だけやけど堪忍な〜。


と言ってまたにかっと笑う。いやいやけんちゃん!白ご飯どころかそれ炊飯ジャーだから!

まあそんなのけんちゃんには通用しない。



公園で炊飯ジャーから茶碗に白飯をよそう風景はいままでで体験したことのないシュールさだった。


だけどその瞬間は、次の授業のこと、明日の課題のこと、山積みのしなければならないこと、そんなの全部どうでも良くなってしまった。


著者のShono Mahoさんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。