第5話 (後編)アフリカへ行く彼から学んだこと【少し不思議な力を持った双子の姉妹が、600ドルとアメリカまでの片道切符だけを持って、"人生をかけた実験の旅"に出たおはなし】
ー携帯が動かないんだけど ーこれからどうやって帰ろうか
ー母に電話が繋がらないの
ー津波の被害は? ー震源東北なんだ
ー電車とまったのかな〜?
ー明日の仕事どうなるんだろう
ーえー、どうなってんのー?
いろんな声が混ざる。不安と混乱と恐怖がうずまき、フロアは混沌としていた。
私は、何かテレビや映画を見てるように、リアルじゃない感じがして、ただただ、そこにいた。
頭が何も働かなかった。
フロアも落ち着き、段々いろんな状況が分かってきた。
震源は東北で津波の被害がすごいこと。
電車はとまっていて復旧のメドはまだついていないこと。
携帯も繋がらないこと。
非常事態だということ。
スタッフに今日は帰っていいという連絡がまわってきた。帰れない人はお店に残ってもいいらしい。
男性スタッフが声をかけてくれた。
派遣のスタッフは男性がダントツ多かった。そういえば久しぶりに女の子が入って嬉しいと言っていた。
一人で残るのは心細いし。どうしよう。
スタッフの間でも、歩いて帰る人、お店に残る人、居酒屋に行く人、それぞれわかれていった。
私はどうしたらいいか、分からなかった。
男性スタッフの一言で、それもそうか。と、居酒屋へ行く事に決めた。
けんちゃん、大丈夫かな?
今日は先輩と飲むって吉祥寺にいるはず....
ふとけんちゃんのことも気になる。
でもけんちゃんのことだし、大丈夫か。携帯も繋がらないし...
そのまま五人くらいで居酒屋へ行くことになった。
居酒屋は電車待ちの同じ考えの人でいっぱいで、たしか二軒目を断られ三軒目くらいでやっと入れた気がする。
急に仕事が休みになった解放感と、非常事態の妙な高揚や、不安や疲れ、
居酒屋はいろんなテンションが混じって変な空気だった。
私たちもいつもと同じ様にお酒を頼み、いつ電車来るかなー、なんて話しながらいつもと同じようにおつまみをつまんだ。
何かとても違和感だった。
非常事態でも、案外普通なもんだなぁ。これでいいのかな?
自分が今何を感じてるのかよく分からなかった。
携帯も情報もない、何を頼ればいいかも分からなかった。
その時、
ブブブブ.....
携帯のバイブ音が一斉に鳴りだした。
「おっ!携帯が繋がるぞ!」
誰かの一言で、みんなが携帯を見る。
電話の着信、メールの受信、10件を超える履歴が一気に届いた。
そこで一通のメールが目についた。けんちゃんだ!
『新宿のまほのバイト先の東口の入り口で待ってる』
急いで打ったであろう文面だった。
電波はすぐ繋がらなくなったはずだから、地震が起きて本当にすぐ送ったみたいだった。
送られてきてからすでに3時間以上たっている。
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