【16歳】忘れたくない人 その2
甘い幸せ
恋の甘さを知った私は、その甘さを夢中で求め続けました。
会えない時間の長さを恨み、会える時間の短さを恨み。
タカフミの柔らかい笑顔も、声も、髪も、手も、飽きることなく見つめました。
恋しくて恋しくて求めている相手に、同じように求められる幸せ。
その幸せに溺れることは、なぜあんなにも心地よいのか。
我慢も背伸びも必要なく、触れたいと思えば触れ、会いたいと思えば会いたいと口に出し、タカフミの優しい瞳に疑う部分は何一つ見つからない。
タカフミに対する時、私は過不足なく私でいられました。
季節は冬から春へ。
私は中学を卒業し高校に進学しました。
毎週金曜日の夕方に、タカフミは私の住む街へ車を走らせてくれました。
片道4時間の道を。
私は、1分でも早くタカフミに触れたくて、電車で1時間かかる駅まで向かいました。
駅で待ち合わせをすることで1時間早くタカフミに会えるのです。
週末を私の家で過ごし、月曜日の朝になると、私は学校へ、タカフミは地元へと帰っていくのでした。
1度だけ、タカフミに会えない週末がありました。
私は「会いたいのに!」と小さな子供のように泣きじゃくりました。
そんな私をなだめるように「来週末は必ず行くから。」と言うタカフミの声は温かく優しいものでした。
変化
翌週末。
タカフミの柔らかい笑顔は、いつもの曇りのないものではありませんでした。
ほんの少し、何かが違う。
その何かの正体が分からず困惑しました。
それでも、タカフミの仕草や眼差しは、いつもと変わらず優しくて、その曇りのある笑顔だけが私を不安にさせました。
私の髪をなでる手の優しさも、眠っている時に私の背中を抱きしめて離さない体温の高い体も、何も変わらないのに。
会えなかった週末から1ヶ月。
「自殺しようとしたんだ。」
タカフミの柔らかな笑顔はかけらも残ってない。
私の目を見ずにタカフミが言いました。
タカフミは私とオフ会で初めて会った時に、数年付き合った彼女がいました。
私と出会い、彼女には別れを告げたのです。
彼女の母親から、自殺を図って病院に運ばれたと言われたと。
会えなかった週末の理由。
私の目を見ないタカフミ。
春の終わりの雨が降る日。
ぼんやりとした頭の中で、もう会えないという事実だけが妙に輪郭をハッキリさせていました。
出会って、恋をして、別れる。
たった4か月の恋でした。
その4か月の記憶が、甘く私を縛り続け、私は壊れていくのでした。
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