ど田舎にできた高校アメフト部がたった2年で関西大会に出た話(8.ごんたの方が面白い)

著者: 岩崎 吉男

8.ごんたの方が面白い

 

春になって1年生が入部してきた。

F、CA、CB、NY、OT、Wk、VNの7人だ。

 CA、CBは、同姓のC2人を区別するためだ。何とも短絡的な愛称を付けたものだが、卒業後も後輩からは、CBさんと呼ばれている。

F、NYは、ガード、CVNはタックル、CAとB、OT、Wkはランニングバック兼フランカーに決まった。

一年生が入ってきたので、僕は守備のラインバッカーもやることになった。

 その数日後、Iも入部することになる。

僕は、1年生が入部してから、まだ一人入部希望者がいると、Sから聞いた。

「明日、グランドに来るようにいうてえな」

僕はSに伝言を頼んだ。

 そして翌日やってきたのが、みんなに「親分」と呼ばれているIだった。三木高校では、一番の元気者で中学時代は柔道をやっていた。

 高校入学と同時に柔道部に入部するが、しばらくして止めてしまった。体も頑丈で、男気がある。エネルギーをもてあましていたところを、U先生に目を付けられて入部を勧められていた。

三木高校の体育祭には、棒倒しという競技がある。これは、赤白の二組に分かれて、お互いが自陣に立てている高さ4メートル程の木の棒を倒しあう競技だ。

攻撃班は、相手陣の守備陣を蹴散らして棒にたどり着き、その棒を力ずくで倒そうとする。一方、守備班は棒に向かってくる敵の攻撃班を棒に近づけまいと、体を張って邪魔をする。

手で捕まえたりすることは自由なので、掴みにくいようにランニングパンツ一枚で行う競技だが、もちろん殴ってはいけない。

ところが、Iは守備をしていて、攻撃をしてくる敵を殴ってしまったのだ。それも自分より年上の三年生を。

この競技は、以後危険すぎるとして中止になってしまったが、やっているとみんなが興奮してくる。一種の群集心理のようなものが出てくる。Iもすぐに頭に血が上るタイプで、自分に向かってくる三年生たちについカッとなって手が出た。そして、その出した手がみごとに相手のあごに炸裂してしまった。それも3人の顎に。

Iに殴られた三年生たちは、その場で仰向けに倒れ、すぐに救急車が呼ばれた。全員あごの骨がみごとに砕けていた。本人はとても反省していたのだが、この事件で一躍有名になった。

僕もこのことは知っていた。がIとは面識がなかった。2年生は15組まであり、僕は2年5組、Iは、2年14組だった。クラスが違うと入学して1年たっても話をしたことのない者はたくさんいた。Iと僕が対面で話をするのも、そのときが初めてだった。

 

その日、Iは練習に遅れてやってきた。

僕は、既に練習を始めていた。僕が気配に気付いて、振り向くと、Iは少し腰を落として、ガニ股でゆっくりと近づいてきた。

がっしりとした筋肉質な体格に、顎の尖った精悍な顔つきをしている。特に肩から腕にかけての筋肉は立派なもので、相当腕力がありそうに見える。

Iは僕のところまでくると、ぶっきらぼうにいった。

「今日から、入部するからよろしくたのむわ」 

スパイクは、かかとを踏んではいていた。

「こちらこそ、よろしくたのむわ」

僕はそういった後すぐに

「何で入る気になったんや」

と以前から気になっていたことを質問した。

「Uが、遊んどってもしゃあないやろ。フットボールに入れ。フットボールにはおもろいやつが一杯おる。あいつらを助けたれ」

「いっぺんキャプテンのうしにおうてこい。と何回もしつこいんや」

Iは照れくさそうな顔をした。

「そうか。わかった」

僕はそう返事をしただけで

「ほな、さっそくやけどセットの仕方を教えるわ」

といって、Iをその場で四つん這いにさせた。

「両足を肩幅くらいに広げて、足の先は平行にするんや。手に4割くらい体重をかけたらええ」

「それとスパイクはちゃんとはかなあかんで」

僕は初対面なので、遠慮ぎみにいった。

「おう、悪かった。こうか」

Iはすぐにスパイクを履き直し、素直に僕の指示に従った。

こいつ、ほんまは素直なええやっちゃ。そのとき僕は思った。と同時に、男気のあるやつがきてくれて、たのもしくもあった。 

僕は、昔から少し「ごんた」といわれているような人物に好感を持つことが多かった。真面目一辺倒の人物よりもよほど人間味があり、一緒にいて楽しいからだ。

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