ど田舎にできた高校アメフト部がたった2年で関西大会に出た話(11.孤独でもやりきるのがリーダー)

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みんな、静粛に話を聞いていたが全く反応がない。

「俺のいいたいことはゆうた。お前らのいいたいことがあったらゆうてくれへんか」

誰も目を合わせずにじっと下を向いて黙っていた。

「黙っとったら分からへんやろ。なんかゆうてくれへんか」

僕は、待ちきれずに頼むような口調でいった。

それからしばらく沈黙が続いた。

やがて誰もいわないのならという顔をして、Xが口を開いた。

「練習が面白ないねん」

「同じ内容の練習ばかりやからか」

「いや、そうとはちゃうけど、なんか面白ないねん」

Xが歯切れの悪い答え方をした。

「練習が面白ない?そんな勝手な理由か」

僕は、あきれたような言い方をした。

この言い方に腹が立ったのか、今度はXが大声を出した。

「お前のような考えをしとるやつばかりやないで。自分勝手な考えを押し付けんといてくれるか」

「だいたい、なんで面白ないことをせなあかんのや」

二人は半分けんか腰になった。

「みんなそう思うとるんか」

僕は違うという誰かの意見を内心期待した。

が、またしても沈黙が続いた。

こうなってはもう誰も口を開かないだろうと僕は思った。

もともと、そんなに大きな問題があるはずがない。

僕は、この教室に入ってきたときには、どうすればみんなが練習に戻って来てくれるか、そのことばかりを考えていた。

ところが、Xの言葉を聞いて、考えが変わった。

 

「そうか、みんなそんなに練習が面白ないんか。そやったら、潰したらええやん」

「確かにシステムの練習は面白いけど、基本の繰り返し練習は面白くないかもしれん」

「そやけど、どんな一流選手でも、同じことを何回も何回も繰り返してやっと、みんなが感動する技を身に付けられるんとちゃうんか。

一流と二流の差は、この同じことを黙々と繰り返せる精神力を持っとるか待っとらへんかの違いやと思うで」

「小さいことの積み重ねができんで、どないして大きなことができるんや。突然ピラミッドの頂上ができるわけがないやろ」

「関西学院大学の選手もいつも同じ練習をしとる。同じ練習やから面白ないという、そんな甘い考えやったら、関西大会に出場なんかできるわけがないやん。それやったら潰したらええ」

「今日は、練習休みにして、明日の練習に全員揃わへんかったら、部は解散や。ええな」

そういい終えて、僕はみんなを残して先に教室を出て行った。

(練習が面白ない。たったそれだけの理由か。後のことは知らん。かってに相談しよるやろ)

僕にしてみれば、一種のかけだった。みんな甘えているだけで、本当に部を潰したいと考えているとは、思えなかった。

今日のことがきっかけで、また練習に戻ってきてくれる。僕はそう思いたかった。

 

翌日、練習の時間がきた。

練習は、いつも4時30分から開始することになっていたが、僕は先に着替えて一人グランドで待っていた。

グランドでは、野球部とサッカー部の一年生数人が既に練習の準備を始めていた。

 しばらくすると、M、Y、Sが現れた。

いつもより来るのが早い。

「みんな来るかなあ」

Sが、僕の顔を見るなり心配そうに呟いた。

「きっと来るやろ」

僕は、自分に言い聞かせるように答えた。

そのうちにI、G、T、X、N、D、Kがやってきた。いつのまにか1年生もそろっている。

「誰かまだきてへんやつおるか」

僕が尋ねると、みんなは一斉にまわりを見渡した。

「ブンがまだや。あいつ何しとんねん」

Yが不満そうに顔をしかめた。

「もうちょっとだけ、待とか」

僕はみんなの気持ちを確認した。

僕らは今にも、Zが来そうな感じがして待っていたが、10分ほど待っても来ない。誰もが落ち着かない様子で、もぞもぞとしている。

僕はしばらく決断を迷っていた。が、Zは来ない。

ついに観念した。

そして、仕方なく口を開いた。

「しゃあないな、決めたことやから、部は解散や」

すると、それを待っていたかのようにグランドの入口から女の人のかん高い声がした。

「僕君、Z君から伝言」

見るとそこには、数学のQ先生の姿があった。

「先生、何やて…」

僕は叫びながら先生に走り寄った。

「Z君は、今、数学のテストの点が悪くて、居残りさせているの」

「そしたら、再テストをさせている途中で、『どうしても先生にお願いがある。一生のお願いや』というので、訳を聞いたら、『クランドに行けへんかったら、アメリカンフットボール部が俺のせいで解散になる。先生代わりに行ってきてくれへんか』というので、来たんやけど」

先生は、走ってきたらしく息を弾ませていた。

「先生、ありがとう」

「ほんまにありがとう。これで部がつぶれへん」

僕が思わずそう答えたとき、いつの間にかみんなも心配してそばに来ていた。

「おおきに。いっしょにやってくれるんやな」

僕は今にも泣き出しそうな顔になっていた。

「おまえが、昨日そこまでゆうたら、潰すわけにはいかんやろ。練習はやっぱりおもろないけど、一流になりたいからな。おまえと一緒に関西大会に出たるわ」

Xが照れくさそうに笑った。

うしろで、みんなが無言で頷いた。

 いつの間にか、心配した部の解散が、再度の結束集会になっていた。  

そして体育館前の斜面には、ゆっくりと坂を登っていくU先生の後姿があった。

 

 


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