怖い婦長さんに出産後にほめられた話 第一部

著者: Guenther Chie

 あれは今から25年ほど前・・・

私は出産予定日までまだ1か月もあるというのにあまりにもむくんでしまっていたため

入院することになりました。(まあ、一応念のためというところですね。)


入院した病院は、老朽化がひどくて、新しい病院が少し離れたところに建設中ということでした。

夜なんか、トイレに行く廊下がなんとも言えない感じに薄暗くって

ところどころ、蛍光灯が「ジーッ・・・ジジッ・・・」と音を立てて点いたり消えたり・・・

遠くの非常灯のオレンジのランプも、闇にぼーっと光って、

もう、何が出てきても驚かない感じの不気味さ(汗)


私は6人部屋の5番目の住人になったんですが、メンバーは、

80歳ぐらいの子宮がんのおばあさん( ← たぶん本人は気づいてなかったと思いますが)、26歳と27歳の妊婦さん、子宮筋腫の50歳ぐらいのおばさん、そして私。


夜の病院の不気味さとはうって変わって、みんな明るくて、楽しい部屋でした。

私は、カロリー制限されていたので、「ご飯が少なくてお腹が空く(涙)」と嘆いていたら

ななめ向かいのベッドのあばあさんが、「私のご飯、ちょっとあげようか?」なんてお茶碗をもってやってきてくれたり( ← ほんとは、いけないんですけどね、カロリー制限だから・・・。)


50歳のおばさんとは、やたら意気投合して、しまいにはベッドをくっつけてしゃべりまくっていて婦長さんに怒られたり。( ← 修学旅行か!)


私たちの部屋と、廊下を挟んだ向かい側に分娩室がありました。


入院して数日後の夜中に、叫び声で目が覚めました。

どうやら妊婦さんが苦戦している様子。

私も含めて妊婦3人(というか、たぶんうちの部屋の全員)耳がダンボ状態。


「ああ」とか「うう」とかいう声に混じって、突然ものすごい婦長さんの声が

「わあわあ言うても、子供は生まれてけえへんっ!!!」


え~~~~~?! 怒られた~~~~ (泣)


私もそのうちあの部屋で、ああやって怒られながら出産するのか

そして、それをこうやって、誰かに聞かれちゃうんだなあと思うと

複雑な気持ちになって、思わず布団を頭までひっかぶって寝てしまいました。



確か、その次の日の夜だったと思います (←もう、よく覚えてない~)

9月に入って、ずいぶんと涼しくなってきていたのに、なんだか息苦しくて眠れなくて

寝つきのいい私にしては珍しく、夜中に目をぱっちりあけていました。


巡回看護婦さんがやってきて、「どうですか?」と聞いてくれたので

「なんだか息苦しくて 眠れないんです。暑いからかな」と私。

「じゃあ、ちょっと血圧測っときましょうか、念のため」と血圧を測っていた彼女は

「ちょっと、このまま待っててくださいね」と急ぎ足で去っていきました。


「???・・・・・・」と思っていると、車いすを押したもう一人の看護婦さんを連れて戻ってきて

「これに乗ってください。血圧が高いから、個室に移動します。」と。


こんな夜中なのに?


「あの、高いって、どのぐらい・・・・?」

「168です。もうしゃべらないで。このアイマスクをしてください。」

飛行機の中でつけるようなアイマスクを渡されて、車いすに乗せられ、アイマスクのせいで何も見えないまま、ゴロゴロとどこかに連れていかれました。


「妊娠中毒症」


なぜだかわからないけれど 母体がお腹の子供の存在に 拒絶反応を起こして むくみ、高血圧、尿にタンパクがおりる・・・などの症状がでるものです。


それまで大きな病気などしたことがなかったので、まさか自分がそんなものになるなんて思いもしませんでした。


自覚症状は全くないのに、絶対安静。

テレビどころか本も読ませてもらえません。


食事以外は起き上がるのもだめ。

お風呂どころか体をふくことも許されない。

顔も洗えなければ歯も磨けない。


どんだけ!!というぐらい安静にしているはずなのに

なんだかとんでもない量のタンパク質がおしっこと共に体から出て行ってしまっていたようで

タンパク質の点滴をすることになりました。

血圧の薬の点滴と合わせて1日3回。


朝ご飯を食べて しばらくしたら点滴。

終わって少しすると昼ごはん。

それから2時間ぐらいして点滴。

夕飯が終わったら最後の点滴。


それがぐるぐる回る毎日。


やがて、トイレに行く回数が減って

顔や手がパンパンにむくんできました。


あ~あ、なんだか思いがけない試練になってきちゃったなあ


出産というだけで、女性にとっては結構一大事です。

もちろん、うれしいし、楽しみだし、全体的にはポジティブな気持ち。


でも、初めて産むときというのは、何の経験もないわけです。

自分の意思に関係なく、体がどんどん変化して行くというのは

結構プレッシャーです。


陣痛って、どんなの?

いったい、どのぐらいの時間で生まれるの?


誰に質問しても、返ってくる答えは同じ。

「さ~・・・個人差あるしねえ・・・。」


基本、直前まで家で普通に過ごせるはずなんだけど

今回のこの状況・・・・


かなりの楽天家の私も「う~ん・・・・」という感じでした。


でも、このあとまだまだ「試練」の度合いが増していくとは

ベッドでおとなしく寝ている私には想像がついていなかったのでした。


◆◆◆ 第二部につづく ◆◆◆


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