壊される 〜「呪い」を解く方法〜
2014年3月に、僕は大学を卒業した。
たいていの大学生は、日本に根付く一種の宗教活動である「就職活動」を経て、大学卒業と同時にどこかの企業に就職し、不特定多数の大衆に融けていく。
僕も然り。就職活動をした。一応内定もとった。でも、僕は今、ある学校に通っている。
ある「呪い」から解放され、今に至る。
断っておくが、このSTORYで述べられている「呪い」とは、怨念とか魔法とか、そういったファンタジックな意味の「呪い」ではない。
さらにこの「呪いを解く方法」は、知らず知らずに実践している人も多いと思われる。つまり、それだけ普通のことであるが、僕が22年生きてきてようやく見出した方法なのだ。
僕の呪い
僕は2014年3月まで、つまり生まれてから大学卒業まで、ある「呪い」にかけられていた。
僕の「呪い」とは、「強すぎる感受性」だ。
どういうことか。
自分に入ってくる刺激に過敏に反応し、逐一強い興味ややる気が湧き上がってくることということだ。
これだけ聞けば、大したことではなく、むしろ素晴らしいことに聞こえるかもしれない。しかし、当人にしてみれば、まさにそれは呪いでしかなかった。
ゲームをすればゲームクリエイターになりたい、アニメをみれば声優になりたい、原宿でスカウトされたら芸能活動をしたい、踊る大捜査線を観たら刑事になりたい、本を読めば小説家になりたい。
こんなあまりに軽率過ぎる思考サイクルが僕の中に確かに存在している。逐一強い興味とやる気が湧き上がり、その度に自分にはお金と時間がないことに気づき、その度にもっと早く始めればよかったと後悔し、その度に「自分のやりたいことは何だ」と苦悩し、やりたいことは一つに絞れずに答えを見出せない。
そしてさらに厄介なのが、この感受性は年をとるごとに肥大化していっていることだ。
子供のころには、僕は自分が何かに感涙するような人間だとは思っていなかった。しかし、今ではゲームとかトトロとかで感涙するほどに、僕の感受性は肥大化した。
自分の興味の方向性が広がっていくことを抑えられない。幼いころは自分の進路なんて考えなくても良かったから、自分がこの呪いに振り回されていることにすら気づかなかった。
しかし、高校・大学になるにつれ、自分の進路を自分で決めるようになると、入りたい高校はたくさんあったから、無難な普通高校に入学し、入りたい大学はたくさんあったから、最後まで悩み、なんとか総合大学に入学した。
大学までこの呪いとなんとな共存できるような生き方をしてきた。
しかし、就職活動となると、もはやこの呪いは共存できるものではなく、自分を迷走させるものでしかなかった。
日本の悪しき風習である就職活動は、自己分析をし、自分の価値観や行動原理、なにより「やりたいこと」をエントリーシートや面接で言語化して、各々が内定を獲得していく。
そんな風習に、やりたいことがどんどん増えて一つに絞り切れない、僕みたいな人間が馴染めるはずもない。
僕の就職活動は完全に迷走していた。同じ研究室の仲間は、独自の就活軸をもち、順々に内定を獲得していく姿が、羨ましく、妬ましく、なにより僕を焦らせ、憂鬱にしていった。
なにをしたいのか分からないのではない。したいことが多すぎて、頭も体もお金も時間も自分の興味に追いつかないのだ。こういう人間は、たいていの企業にとって採用を渋られる存在だ。軸がないと捉われてしまう。
結局僕の就職活動は大学3年生の夏に始まり、大学を卒業するまで終わることはなかった。
転機
大学4年生の12月。
僕は、ある行動を起こした。
実際に経験してみること。
きっとこの感受性は、もはや自制できない。ならば、興味ややる気が湧いたことを一つ一つ実際に経験して、その興味ややる気が経験後に消えてしまう一時的なものなら迷走経路が一つ消えて良し、さらに掻き立てられるならばそれはきっとやってみたいことではなく、やり通したいことなのだと考えることにした。
この時代、動いてみればなにかにぶつかる。
バンタンゲームアカデミーにおいて声優学科の体験授業が3日後に開催される!
即座に応募した。
結果、声優業は「やってみたいこと」だった。迷走経路が一つ減ったから良し。
次はiPhoneアプリ制作。3ヶ月間、RainbowappsのObjective-Cの無料講座に通ってみる。
結果、iPhoneアプリというよりプログラミングは「やってみたいこと」だった。迷走経路が一つ減ったから良し。
次は音楽制作。どうやら、大学の冬季集中講義に「ミュージッククリエイション」があるらしい。
即座に担当講師に連絡。
どうやら、4年生は単位集計の都合上、集中講義は受講できない。
ならば、単位はいらないので履修させてくださいと言ってみた。
言ってみるもんだった。
僕は大学でもっとも人気のある授業を抽選を受けることなく履修できた。
結果、音楽制作、面白すぎ。
その講義はMacのlogicを使い、好きな楽曲を自分なりにアレンジするという内容だったが、やめられない止まらない。時間が過ぎるのが早すぎる。
僕はきっと、音楽制作をやり通したいのだろう。
これが、今の学校に入るきっかけ。
卒業、入学&仕事
年を越す。2014年になると、残りの大学生活は3ヶ月。
ほとんどが春休みだから、ほぼNEET生活。
僕は不安な日々を過ごしていた。音楽制作がやり通したいことであることは分かったが、次にどうしていいのか分からない。
音楽制作を学べるのは専門学校だろう。つまり、また莫大な学費がかかる。その頃の僕には大学卒業後にもう一度専門学校に入学する経済力はなかった。
ただ、その頃の僕には「不安になったら突っ走ってみる」という思考回路ができていたから、まずは動いてみた。
やはりこの時代、動いてみればなにかにぶつかる。
バンタンデザイン研究所
一年間、週一回の授業で、卒業後にクリエイティブ業界への就職を目指す、社会人や元大学生が入学する学校法人。
なんなんだ、この巡り合わせは。
さっそくガイダンスに応募。
そこで、思い切って先生に相談してみた。
「僕は人一倍に感受性が強くて、自分の興味ややる気の方向が定まらないんです。今は音楽制作に気持ちが向いていますが、いつその興味が違う方向を向くのか分からなくて不安なんです。」
先生は余裕の笑みを浮かべて答えた。
「クリエイティブ業界において、そういう感受性って本当に武器になるんだよ。自分の極めているものと自分が興味を持ったものをどんどんと組み合わせていくことが、現代のクリエイティブ業界だから、そういう意味で君は本当に良いアンテナを持っていることになるんだ。だから、これからの一年間は音楽制作をまず極めてみたらどうかな?そうすれば君はその感受性を乗りこなせるようになれると思うよ。」
この瞬間、僕の呪いは、僕の最大の武器になった。
それからトントン拍子で話が進み、理想通りのアルバイト先が決まり、学校にも無事に入学できた。
就職活動で内定は一応取っていたが、断って本当に良かったと思う。
やりたいと思わないことを、働きたいと思えない会社で、こなしていくのは僕にとって苦痛でしかないのだろう。仕事とプライベートを分けられるほど器用じゃないから。
だから、今は本当に楽しい。
アルバイトも自分の好きな容姿で、自分という人間を活かして接客業に勤しんでいる。
週一回の授業は、手探りではあるし、分からないことも多いが、良い意味で努力している感覚がない。
完全に公私混同している。
だから幸せ。
呪いを解くために
僕にかけられた呪い、強すぎる感受性は、もはや僕の才能だと言える。
自分の意思に関係なく、生まれた瞬間から身についていた他人よりも秀でた能力。これが才能以外のなんだと言うのか。
つまり、視点を変えてみること。これが「呪い」を解くためにまず必要だ。
物事は表裏一体。
表だけではなく裏にも目を向けること。
表だけでなく裏にも目を向けること。
自分の癖や、ついついやってしまうこと、陥ってしまう思考、身についてしまった能力などをまず思い出してほしい。つまり、それはあなたにとっての「呪い」だ。
そして、それらを成長することで手に入れる人がいることを思い出してほしい。あなたのその「呪い」に、かけられたくても、かけられない人がいる。あなたの「呪い」をなんとかして手に入れようとしている人がいる。
となれば、そういった人達にとって「呪われているあなた」は「才能に恵まれたあなた」となるはずだ。
視点を変える、マイナス思考からプラス思考に変えてみる。
プラス思考になることを難しいと考えている人は多いように思う。でも実は簡単なことなのだ。
自分がマイナスに考えていることを、プラス思考で考えればどうなるのか、ということを逐一考えていれば、自然にプラス思考になって行ける。
これは経験上、断言できる。
そうすれば、あなたは自分の才能に気づくことができる。
才能とは、特定の誰かが得られるものではなく、全ての人間に備わっている。自分の才能に気づけるかどうか。自分の才能を、自分の才能だと認識できるかどうか。
それが大事。
簡単なことだ。自分を認めることから始めればいい。
自分にかけられた「呪い」、それも含めて自分なのだと思えればそれでいい。
そして、やってはいけないことは「他人と自分を比べること」だ。
いくら自分の才能に気づいても、他人と比べてしまっては意味がない。長所の長さを比べていたら、長所のある人間は世の中からいなくなってしまう。
自分と同じ才能をもつ人間もいる、そう考えれば済む話だ。
世の中、学校の通信簿のように人格を数値化することが当然になっているが、振り回されてはいけない。
自己に他人の評価を気にする前に、自己に対する自分の評価を気にしよう。
自分は、自己のことをどう考えているのか。
自分の長所を見出せる人は、他人の長所も見出せるはず。
あなたの長所を短所にするのも、短所を長所にするのも自分次第。
それが大事。
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