生涯、彼からの返事は私の耳には届かない。

著者: Sakuragi Miki

何を言っても、返事はない。

おはようって言っても、返事はない。
ただいまって言っても、これまた返事はない。


今年の夏で、彼と出会い一緒に暮らし始めて11年が経つ。

11年前。

夏の暑い日に、彼と初対面。       無言だった。

それから毎日のこと。

「おはよう。学校行ってくるからね。待っててね。」

「ただいま~!今日さ、超楽しかった事あったんだよ!」

「ねぇ、聞いてよ。ちゃんと私の話聞いてる?」

「ただいま。」

「おやすみ。」

私が何を話しかけようが、彼は返事をしなかった。

ただ私を見てるだけ。じっと。ただ見てるだけ。


たまに首をかしげたりするけどね。


彼は、何にも喋ってくれないけど、

私がしょんぼりしてたら、寄り添いに来てくれるし、
「こっちに来てよ」って言ったらすぐに駆けつけてくれた。

私は嬉しかったし、私の気持ちは彼に伝わってるはずって信じてたから、返事はなくとも構わず毎日話しかけた。


もう11年も一緒にいるのに。

彼は未だに言葉を発さない。


最初からわかってた。出会った時からわかってた。

生涯、彼からの返事は私の耳には届かない。

私がどんなに泣きわめいても、どんなに返事が欲しくても彼は言葉を発しない。
何も言ってくれない。一生。そう、絶対に。



そんな私の最愛の彼の名前は







ソラン


彼は犬だ。    人間じゃない。 

言葉なんか話さない。



話せない。


返事なんか聞いたことない。一度も。聞けるわけないじゃん。犬だもん。喋れないんだよ。

散歩してるときも、赤の他人が見たら、まるで私が独り言言ってるみたいに見えているんでしょう。

でも、それでもいいの。

優しい言葉を返してくれなくたって、ソランは行動で示してくれる。

嬉しい時は尻尾を振ってくれるし、傍に一目散に駆け寄ってくれる。

怒ってるときは、私が話しかけても、そっぽ向くし。

悲しい時は、眉毛を下げて、目がしょんぼりになる。


動物と一緒に暮らしている人はお分かりでしょう。

会話してないようで、会話している。


犬だって猫だって鳥だって。心はあると思う。生き物だから。

私はこれからも彼に向って話しかけるだろう。

生涯、彼からの返事は私の耳には届かない。

それでもいい。気持ちは伝わる。気持ちは返ってくる。

心に。







あなたの周りに、返事を返してくれない生き物はいますか。

話しかけてください。

聞こえない言葉が、返事が、きっとあなたのもとに届くはずです。








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