教科書に載っている、いい話①

著者: 浅川 博之

「タンザニアの名もない村の村長さんのいった言葉」黒柳徹子

栄養失調から脳に障害を起こし,

考えることも,しゃべることも,

歩くこともできずに,ただ地面を這っているだけの

子供たちのいる村の,年とった村長さんが,

私に,こういった。

「黒柳さん,これだけは,おぼえて帰ってください。

大人は死ぬとき,苦しいとか,痛いとか,

いろいろいいますが,子どもは何もいいません。

大人を信頼し,黙って,

バナナの葉っぱの下で,

死んでいくのです」

インドで,破傷風にかかって

死にかけている男の子に会った。

私は,その子に日本語だったけど,そっと話しかけた。

「お医者様もやってくださっているし,頑張るのよ」

その子は,大きな美しい目で私を見ると,

のどの奥で「ウ,ウウ……」と声を出した。

破傷風は恐ろしい病気で,体中の筋肉が硬直してしまうので,

話すこともできなくなる。

私は看護婦さんに,なんといったのか聞いた。

看護婦さんは,その子が私に,

「あなたの,お幸せを祈っています」

と,いっている,といった。

私は言葉がなかった。

死にそうなその子は,なんの不満もいわずに,

それだけいった。

(村長さんがいったのは,こういうことだったのだ)

村長さんと,その子のいった言葉は,

いつも,私の胸の中にある。

  (『トットちゃんとトットちゃんたち』より」

著者の浅川 博之さんに人生相談を申込む