【投稿テスト】シミ。2

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私が頷くと、彼は前を向いたまま満足そうに微笑み

それから10分ほど、車を走らせた。


そして車を停めたのは、ダイニングバーの前。

エンジンを切ると、彼は少し照れくさそうに私に視線を合わせる。


前さ、おいしいモノお願いしますって言ってたじゃん?

俺全然そういう店知らなくてしばらく悩んじゃって……。

結局職場の大学生から聞いたの。ここ。

あんな、適当に言った言葉を気にして店を選んでくれた事に、まず感動した私。

全く格好付けずに“人から聞いた”と明かす所にも、かなり好感を持ってしまった。

ユキ
ごめん!あれはノリで言っただけで……。

正直私、ラーメンとか定食屋とかお好み焼きとか大好きな庶民なんだけど……。

気を遣わせてごめんね

必死で謝ると、彼はまた笑う。

考え過ぎか俺は。

ちなみに俺もラーメンとか超スキ

ラーメン話ですっかり打ち解けたけれど

せっかく悩んで選んでくれたんだし、ということで

私たちは予定通りダイニングバーに入った。


中は思ったよりも静かで

ちょっと浮いちゃうんじゃ…と不安になる程の大人の雰囲気に一瞬身構えたものの。


私たちの会話は途切れず

すぐに不安などどこかへいってしまった。


純くんは、注文を追加する度に、使われている食材が苦手じゃないかどうか私に確認をしてくれ、

普段、そんな風に女の子扱いされ慣れていない私にはくすぐったくて

新鮮な気持ちになったし

嬉しかった。



それから

食事もほとんど済んで

でも会話は絶えず、かなりの時間が経過した頃

ユキ
そういえば、私に“ちゃん”付けなくていいよ。

なんだか慣れなくて恥ずかしいし。

ユキで良いよ、皆そう呼ぶから

私が何気なく言った言葉に、純くんは突如、考え込む仕草をした。


ユキ
どうしたの?


あ、……うん。
俺ね、女の子を呼び捨てした事ないから逆にちゃん付けさせて貰えたら嬉しいんだけど。

って感じの会話をさ
前にも一回した事無い?俺ら
ユキ
え……?

確かに私には、同じ様な会話をした記憶があった。

でも一体いつ…?ドコで…?

全く思い出せない。

すると、純くんは何かを思いついたように、私と視線を合わせた。

ねえユキちゃんさ、

去年の冬、スポーツショップのスノーボードツアーに参加しなかった?

その瞬間、私の記憶が一気にフラッシュバックする。

ユキ
行った!!
まさかあの時の?
あれって純くん!?

その時ようやく

“以前にどこかで会った”記憶が私たちに戻って来た。


昨年冬、確かに私は友人がバイトする某スポーツショップのスノーボードツアーに参加した。


そこには上手な男の子がいて

私は感心しながら眺めていたのを覚えている。


食事の時、その人がたまたま近くに座っていたわけだが

その時、名を名乗る程度の自己紹介と、2、3会話を交わした。


“俺女の子を呼び捨てにしたことなくて。”


あの時私はそれを聞いて

なんだか可愛い人だなぁと、感じていた。

ユキ
なんか…

ベタなドラマみたい……
ほんと!ベタ!!

でも事実だからびっくりだよね

記憶を取り戻した私たちは、古いドラマにありそうなベタな展開に大声で笑いながら

更に、会話は盛り上がる。

そして気付いた時には、深夜0時をゆうに超えていた。

遅くなっちゃってごめんね。

そろそろ帰ろうか

その言葉に、自分でも戸惑う程にテンションが下がってしまう。


これじゃまるで、好きみたいじゃないか、と

ふと浮かんだ発想を、あわてて頭の隅に追いやり

私はあくまで平静を保ち、頷いた。


***


車に乗り、再び会話を続けていると

車はすぐに、待ち合わせた場所へ到着する。

ユキ
えっとー、じゃあ、今日はありがとうね

逆に不自然な程アッサリと車を降りようとした私。

すると、純くんは慌てて、私を引きとめた。

あ、待って……、
えーっと
もーちょい…

俺が一本煙草吸う間だけ話し相手してくれない?

私は一瞬驚いたけれど、そんな動揺を笑ってごまかす。

ユキ
あはは!なにそれ!


でも煙草吸う間って……ほんと、数分じゃん。

可愛げの無い事を言っていると自覚をしながらも

純くんの言葉にドキドキしてしまっている自分を隠す為には

そんな方法しか思いつかなかった。


そして

ほんの数分。

……の、つもりが結局それから30分くらい車の中で話は続いた。


その時純くんは自分の事を色々話してくれた。

ホームセンターに勤めている事。

10年くらいスノーボードをやっている事。

それから

長く付き合った彼女と年明けに別れたという事も。


知り合ってまだあまり経っていないというのに

深い話まで語ってしまうこの状況は、本当に不思議なもので


そもそも、普段積極的に交友関係を広げる事をしない自分が

こんなに心を許して会話している。

それは本当に、あまり経験の無い感覚だった。


***


そして、ついに深夜1時をまわった頃。

いい加減帰らないと、という話になり、ようやく私は車から降りた。

ねぇ!俺いつでも暇だからさ

暇な時いつでも誘ってね。俺も誘うから。

…おやすみ!

去り際に言われたこの言葉に、私は大きく頷く。



ついに独りになった帰路で

久しぶりの不思議な感覚に、動揺していた。


すごく、すごく、楽しかった。

こんなに話してもなお、まだ話したいと思っている自分がいる。


これって

……もしかして。


いや……でも。

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