私はここにいる

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吹かすだけだった。
「何人、女を作ったら気が済むの?何人、女をその気にさせたら気が済むの?事務員まで手を出すんじゃねーよ」
ほまれは口に入れた煙を真壁の顔に吹きかけた。
「そんなんじゃねーよ」
「私、あんたみたいな男嫌い」
「俺もおまえのこと嫌いだよ」
真壁は静かに言った。
「女ったらし」
ほまれは真壁の存在を全否定したくてたまらなかった。
「鍵かけて事務員とセックスしてたの?どこでも出来るんだね」
真壁は黙ったままだった。
しばらく静寂になった。

「ほまれ、目を見せてくれないか?」
いきなり真壁が言い出す。
平田と同じだ。

ほまれは怒りが込み上げて来て真壁の前に立ち真壁の頬を引っ叩いた。
真壁は何も言わなかった。

「帰る!」
ほまれはかばんを掴み帰ろうとした。
「俺も帰る。一緒に駅まで行こう」
真壁は後から着いて来た。
あの大きなオレンジ色の太陽が沈みかけていた。

駅に着くと電車が行ったばかりでホームには誰もいなかった。

ほまれはホームの椅子に座った。真壁も隣に座った。

「昨日、助けられなくてごめん」
真壁がホームの向かい側を見て言った。ほまれは真壁の横顔を見つめる。
「他に聞きたいことは?」
ほまれが投げやりに言う。
「別に」
真壁は前を向いたままだった。
真壁は女をたぶらかす男だ。平田と同じだ。
ほまれはふとかばんの中を覗いた。
昨日、パニックになっていたので忘れていた。
封がついた札束があった。

「真壁君、バイトなにやってるの?」
「ホストだよ」
「あんたに合ってる仕事だね」
「言っとくけど俺は女ったらしじゃない。アマチュアバンドもやってるしファンがいてくれてるだけだよ。昨日の女も店の客だ」

「何で目を見せてって言ったの?」
「おまえの目綺麗だ。いつかデッサンさせてくれないか?上手く描けるかどうかわからないけど」

みんな私の目が好きなんだ。じゃ、心は?

ほまれはふと思いついた。かばんの中の札束を見ながら。
「ホストのバイト代っていくら?」
「安いよ。時給850円だ。朝の5時まで働くんだぜ。まぁ、他のバイトよりは時給は上だけど」
「月の給料どれくらい?」
「どんなに頑張っても5万くらいかな」

ほまれはおもむろにかばんから札束を出し真壁に渡した。
「えっ?」
「数えて」
真壁はほまれに言われた通り数え出した。
「100万あるよ。どうしたのこの大金」
「今日、土曜日でしょ?今日と明日、真壁君を買う」
「どう言う意味?」
「ホストクラブの客がホストに貢ぐのと同じだよ。かばんに直して。私、今、真壁君を二日買ったから。これからどこかに行かない?」
真壁はあっけにとられていた。

電車がホームに入って来た。
二人は並んで座った。
真壁はしばらく黙っていた。
「いいよ。おまえの気が済むなら。でも金はいらない。俺を買うなんて言うなよ」
真壁は平田とのことをすべて悟っているようにも感じた。

私はここにいるのに心がどこかに飛んで行ってるとほまれは思った。

「ご飯食べようよ。美味しいお店知ってるでしょ?それからディスコに行こうよ」
「知ってるよ。よし!行こう」
真壁って実はいい奴なんじゃないのか。潜在意識の中で真壁に他の女子と同じように憧れてたんじゃないのか。ほまれは思った。

平田の苦しさを真壁に言いたかった。でも思い出して涙がこぼれるだけなのだからやめることにした。

真壁はお洒落なレストランに連れて行った。
ほまれは本当は食欲なんてなかった。
「いっぱい頼んでいいよ。お金あるし」
「金のことは…もう言うなよ。わかってるから」
平田から貰ったものだと直感していたのだと思う。

食事中、たわいも無い話になった。絵のことやクラスメイトのこととか。ほまれは平田のことを遠ざけた。
真壁は面白おかしく話を続けた。ほまれは笑っていた。
「よし!そろそろディスコに行くか!」

ディスコの重いドアを開けると大音響だった。
開店したばかりで客はまだ少なかった。
薄暗いテーブルに二人は座った。
「なに飲む?」
「アイスコーヒー」
大音響のせいで二人とも耳元で大声で言う。
「俺、実は二十歳なんだぜ。ニ浪したんだ。大学は諦めたんだよ。俺、ビール頼もうっと」
真壁が手を上げた。
平田とだぶる。

カルチャークラブの『カーマは気まぐれ』が流れて来た。
「踊ろうか」
真壁は平田のように手首を掴むのではなく手を繋いでほまれをホールに連れて行った。
真壁は踊り出した。壁はすべてミラー張りだった。
ほまれは少し身体を揺らしながら真壁を見ていた。
真壁のダンスは上手かった。まるで本当のダンサーみたいだった。他の客も真壁に見惚れるほどかっこよかった。
4〜5曲踊って真壁はほまれの方を向いて
「疲れたな。休もう」
テーブル席に着いた。
「なんで踊りが上手いの?」
ほまれは真壁の耳に手を当てて聞いた。
「俺、高校の時、ロボットダンスしてたんだよ」
「なるほどね」
真壁はビールを一気飲みした。そしてまたたわいも無い話をし出した。ほまれがクォーターであることも話した。

急に音楽がスローテンポになりチークタイムになった。
真壁が「行こう」と言ってほまれの手を繋ぎホールに来てほまれを真壁が包み込んだ。耳元で
「チークやったことある?子供」
「あるよ。たくさん」
ほまれはチークをやったことがなかった。

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