私はここにいる

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「帰る」
早く逃げ出したかっ。
平田は何も言わなかった。
ほまれはかばんを取り逃げるように部屋を後にした。
エレベーターのボタンをカチカチと何回も押す。

大嫌い!大嫌い!顔も見たくない!
エレベーターがやっと来てドアが開く。ほまれは中に入り1階のボタンをカチカチと何回も押した。
エレベーターのドアが閉まる。1階に着くまですごく時間がかかったような気がする。
始めて平田と部屋に行った時と同じように。
走ってホテルのロビーをすり抜けホテルの出口に出ようとした時、女性を連れた真壁とぶつかった。
「ごめん」
真壁の反応を見ることなく走った。

ほまれは自分の部屋に入りかばんを投げ捨て平田から買って貰ったネックレス、バッグ、服、ぬいぐるみ、スニーカーを片っ端からゴミ袋に入れた。そしてベッドへと潜り込む。
ほまれの母親がノックをし
「ほまれ、ご飯は?どうしたの?」と心配気に声をかける。
「ちょっと頭が痛いから寝る。ご飯いらない」
この時ほど親が煩わしいと思ったことはなかった。

俺たち付き合ってたのか?
お兄ちゃんと妹だろ?
その言葉が離れない。

朝起きたら死んでたらいいのに…
死にたい…
ほまれは眠れなかった。


ザワザワと人の声がする。平田がいた。まるでテレビのコント劇みたいだった。…お兄ちゃんとほまれは声をかける。平田には聞こえていない。周りを見回すと女性たちがたくさんいる。平田と楽しく会話している。ある女性がほまれに近づき
「健一はね…」
何かを言いかけた。平田は笑っていた。
「…お兄ちゃん」
「何だよ!おまえなんか知らないからあっちに行けよ!」
それでもほまれは想いを告げたくて何を書いたかわからないメモを平田の黒いジャケットのポケットに入れようとした。平田はそれに気づき
「もう、いいって!」
そのメモをクシャクシャにして捨てた。ほまれは落胆した。外に出ると山の頂上だった。平田はこんなところに住んでいたのか。こんな山の頂上からどうやって帰る?辺りは雪景色だった。
「あの子、死ぬ気よ!」
別の女性が言った。
「ほっとけ!それよりさぁ」
平田が言った。
ほまれは山の頂上から雪の中へ入ろうとした。死んでしまってもいい。平田に止めて欲しかった。後ろを振り向くと平田はヘラヘラと笑いほまれのことなど忘れているようだった。雪の中に足を踏み入れた。帰る道もわからない。死んでもいいか…

夢だった。目覚まし時計を見ると午前11時だった。
目が覚めてしまったんだな…死にたかったのに。

もう、授業は始まっていた。学校に行く気もしない。夢見も悪かったせいか何もする気が起きない。
じっとしていたら頭がおかしくなりそうだった。
母親はパートに出ていない。
ほまれはバスルームに行きシャワーを浴びた。そして頭と身体を何回も洗った。
髪の毛をドライヤーで乾かしながら外に出てみようと思った。

電車に乗った。しかし、つい癖で学校があるビルまで来ていた。
真壁と会いたくない。でも仲間がいる。ディスコへ誘ってくれるかもしれない。
ほまれは教室に入った。
真壁と目が合ってしまった。
「こら、もう授業は終わりだぞ」先生が言った。
「すみません、体調が悪かったので」
明美も真子もみんな帰る用意をしていた。自分からディスコに行こうと誘うことは出来なかった。

「どうしたの?寝坊助」
明美はほまれが良く寝坊して遅刻するのを知っていた。
「バレたか」
ほまれは何事もなかったように微笑み返す。
「ねぇ…」
と言いかけた時
「今日は早く行かなきゃ。ガソリンスタンドのバイト忙しいんだよね」
明美はさっさと行ってしまった。
真子を見てみる。顔を歪めている。
ほまれはすぐに思った。真子は生理なんだ。真子の生理痛は半端じゃない。一回、教室で倒れて救急車で運ばれたのだった。

「ほまれ〜帰るよ〜」美樹がほまれに言った。

美樹は…?遊べる?
美樹は謎の少女だった。ロングの髪にいつも変わった格好をしていた。
女子たちで街をウロウロしてた時にある雑貨屋に入った。みんなバラバラで商品を見ている。
「もう出よう」
と美樹が言い出した。みんなもそれに従った。
店を出ると
「ほら!見て!」
美樹の首元をみんなで見る。
玉で綴られているブルーのネックレスを付けている。
「あれ?」
みんなが口を揃えて言った。
「やったの」
悪びれた様子もなく笑顔で言っている。
「美樹ったら〜」
誰も咎める女子はいなかった。
ほまれは美樹は常習犯だと思った。

「美樹、暇?」
「ん〜ちょっと用事があってさ」
それ以上ほまれは何も言わなかった。

ほまれは誰もいなくなった教室にポツリと座っていた。
教室の窓に目をやるとオレンジ色の光が差していた。ほまれは立ち上がりカーテンを開く。
空の向こうに大きなオレンジ色に輝く太陽がほまれの顔を染めた。

綺麗だな…

誰もいなくなったビルの2階。ほまれは自動販売機のところへ行き缶コーヒーを買った。そこは学生たちのために休憩場所にされている。
ほまれは椅子に座り缶コーヒーを一口飲んだ。

するといきなりガチャリと鍵を開けてデッサンに使う教室から真壁が出て来た。

ほまれはただビックリした。
真壁の後から出て来た女性は事務員だった。事務員はほまれを見て慌ててビルを出て行った。

真壁が近づいて来る。
ほまれは黙ったまま、また缶コーヒーに口をつける。

「おい、子供、どうした?」
ほまれは無視する。
真壁はほまれの隣に座った。
しばらく二人は黙っていた。
真壁が煙草に火をつけた。
「一本頂戴」
「子供のくせに煙草なんて吸うなよ」
と言いながら煙草を一本差し出しほまれが煙草を加えた時、真壁はライターでほまれの煙草に火をつけた。

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