初めて通った声優養成所/老舗のスパルタ教育・その3(全5回)

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もちろん、勝田学院長も厳しかった。
生徒のほとんどは、大学生やフリーター、社会人になりたての20代前半の若者ばかりだったのだが(中には高校生もいた)、そんな中に一人か二人くらい、社会人経験を十分に積んだ、20代後半のサラリーマンなんかもいた。
そのサラリーマンは、夢を捨てきれず一念発起。
時間と金を作って仕事の合間を縫い、この学院に飛び込んできたのだが、お世辞にも芸が達者とは言えなかった。
滑舌の酷さもすさまじく、それゆえ、芝居もいまいちに聞こえてしまうのである。
そんなリーマン生徒に向かって学院長が一言。
「 な ぜ 君 は こ こ に 来 た の ? 」
リーマン生徒、固まる。
しばし間を置いた後、理由を真摯に語る。
しかし学院長はバッサリ返答。
「せっかく社会人として立派に働いてきたのに、わざわざ苦労してこんな世界に入ることはない。君はサラリーマンの方が向いているよ。さっさと辞めて元の生活に戻りなさい」
「そんな酷い!」と、思われる方もいるかもしれない。
が、学院長の真意は、将来のある若者に、自分に一番合った道を今一度きちんと考え、選んで歩んでほしいということなのである。
このリーマン生徒の他にも同じようなことを言われていた生徒がいた。
有名大学に在学中の生徒だった。
「君、せっかく素晴らしい大学で勉強しているのだから、そのまま就職すれば素晴らしい将来が約束されているだろうに、なぜここに来た?君は芝居よりも研究職の方が向いている。辞めなさい」
(注:今から15年前の話なので、社会情勢は多少違う)
学院長にそう言われ、実際辞めていった生徒もいた。
が、「なにくそ!」精神で学院に残る者もいた。
この学院長の言葉が、一番最初の「ふるい」というわけだ。
かなり大きな網目のふるいだが(笑)、
そんな段階で落ちてしまうようでは、やはりこの世界には向いていない。
と同時に、辞めた生徒達は、懸命な選択をしたと思う。
向いていないのにいつまでも時間と金を無駄にするという、不毛な道を歩むことを、自ら断ち切ったのだから。
中には、「学院長はそう言うけれど自分は本当はもっとできるんだ!」という思いから、別の養成所に行く者もいた。
そうこうしているうちに三ヶ月が経った。
最初の入学時に学院長が言ったとおり、
クラスの人数は、3分の2に減っていた。
〜続く〜

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