「夢」か「安定」か?〜超就職氷河期に2度内定を捨てた話し〜

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著者: 石本 良幸

「はじめに」

僕が就職活動を行う2年前、リーマンショックが訪れて「超就職氷河期」に突入した。

バイト先の先輩が「あかん!全然内定もらわれへん。」「このままやと就職浪人や…」と悩む話を散々聞かされた。

その翌年、友達や同期の人たちの就活が始まった。僕は大学受験で一年浪人してたため、その様子を間近で見ることができた。

リーマンショック前に就活を行っていた先輩たちの話はそこまで深刻ではなく、「次は3次面接やねん!」「よっしゃ内定もらったわ!」と聞くことが多く、新しい世界に向けてステップアップしていく姿に憧れていた。

しかしこの年、状況は変わっていた。

バイト先でバリバリ仕事が出来てみんなを引っ張っていく友達が「まったく通らない」と悩む姿。

藁にもすがる思いで何十社も説明会を受けて、行きたくもない会社の面接を受ける友達の姿を何度も見た。

「あれ?就活ってこんなんやったっけ?」

僕がかつて憧れていた「夢に向かって」の就職活動は消えていて、テレビでも新聞でも悪いニュースばかり流れていた。

そして実際、僕の友達も思うように進まない就職活動に頭を悩ませていた。

「このままだとヤバイ!」

直感的にそう感じ、何とかしてでも実りある就職活動を行おうと大学2回生の僕は焦っていた。

まだやりたいことも、本気で行きたい会社も見えてなかった。

でもそんな僕にも一社だけずっと心の奥で気になっている会社があった。

それは僕が初めて感動を受けたインテリアショップを展開する会社だった。

「どうせ一生働くのなら、自分の好きなところで仕事をしたい!」

そんな思いは昔からあった。たぶんバイト先で活き活きとしていた先輩たちが、社会人になって苦しんでいる姿を見ていたから。

そしてまた、社会人になっても憧れた仕事に就き、活き活きと活躍している人たちの姿を見てきたからだと思う。

「来年はいよいよ自分が就職活動の年か!」

不安と期待を膨らませながら僕は大学3回生の春を迎えた。

そしてその年が自分の人生にとって一番のターニングポイントになるなんて、当時の僕に知る由もなかった。

「強敵現る!」


大学の授業はしょっちゅう逃げるくせに、3回生から始まる就活の場だけは敏感になっていた。

僕の年は「就活解禁」が10月1日の最後の年で、3回生の4月の時点ではまだそこまで就活モードの友達は居なかった。

ただ一人の強者を除いては、、、

春学期が始まり、いつも通り遅刻して教室に入ると、奥の席に見覚えのある姿があった。

「よっちゃん!」

その返事に向こうは少し驚いた感じでこっちを振り返って、「あ!いっしーやん!」と言ってくれた。

よっちゃんは1回生の頃に仲が良かった友達で、2回生になった時に専攻が分かれて会うことは少なくなった。

それでもたまに食堂で会うとサークルの話や恋愛の話などして盛り上がっていた。

「よっちゃんもこの授業取ってたんや!」久しぶりの再開とこれから同じ授業を受けれるという嬉しさで、授業そっちのけで話が弾んだ。

そんな時、ふとよっちゃんの手元にある本に目が止まった。

「なあよっちゃん、その本なんなん?」

「あぁ、これ?今度インターンシップ受けるところの業界本やで!」

インターンシップ?業界本??

詳しくその単語の意味を知らなくとも、就職活動に関わるもだということはすぐに分かった。

「よっちゃん!もう就活してるん!?」

「そやで!2回生の終わりにインターンシップ参加してからちょくちょく企業研究してるねん。」

衝撃だった。

周りの友達で就活を始めている人はおらず、少し早めに意識している自分はすごいと勘違いしてたのが恥ずかしかった。

でもそれ以上に既にインターンシップにも参加して企業研究もしているよっちゃんの話にはとても興味があった。

「よっちゃんどんな会社に行こうとしてるん??」

「俺はMRになろうと思ってるんよ」

MR?まったく知らない言葉に戸惑っていたら、よっちゃんが詳しく説明をしてくれた。

それは製薬会社と病院をつなぐ人たちのことで、自社で扱う薬を色んな病院に紹介する仕事。

そう、僕が進もうとしてる道とはまったく違う職業で、それでいて何やら難しそうな仕事だと思った。

だからよっちゃんが何故MRを目指そうとしているのかが気になった。

「なんでよっちゃんはMRになりたいん??」

「あ〜それなんやけどな、、、」

そこからよっちゃんは一生懸命にMRになりたいと思ったきっかけを話してくれた。

よっちゃんの親戚でMRの人がいて、たまたま家に遊びにきてた時に「お前はMRに向いてそうやな!」と言われたことがきっかけらしい。

そこから「MRってどんな職業なんやろ?」と興味が湧いて、色々調べている内に「なんか面白そう!」と思ったとこのこと。

「MRの親戚から話を聞いたり、インターンシップに参加する中でこういう仕事で人の役に立ちたい!って思ってん。」

そう話すよっちゃんの顔は輝いていて、僕は前方にいる教授の話は聞かず隣にいるよっちゃんの話を真剣に聞いていた。

あまりの真剣さに授業で使うノートによっちゃんの話をメモっていた。

「だから俺、○○製薬会社に行きたいねん!」

よっちゃんは最後にそう言った。

「製薬会社も色々とあるけど、みんな企業理念や特徴が違うからやっぱ行くんやったら自分の理念にあったところに行きたいわ。」

神だと思った。

自分が行きたい業界をしっかり持ってることにも驚いたのに、更にはその中で行きたい会社もはっきり持っている。

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