【襟裳の森の物語】第一夜

前話: 【えりも方式の衝撃】第6話
著者: 森内 剛

〔北海道のすばらしさを伝えよう〕

 襟裳に緑を取り戻す一連の話に注目した,ひとりの作曲家がいた。北海道合唱団の木内宏治さんだ。それまでにも『アンネの日記』で有名なアンネ・フランクを題材にしたものや旭川地方の突哨山のカタクリ群生地を守るためのものなど,“社会派”と呼ばれる合唱曲を次々に生み出していた木内さんは,襟裳の物語を知り,作品化への情熱をかきたてられた。

 彼は実際に何度も襟裳を訪れ,当時のことをよく知る飯田常雄さんと交流し,当時の息吹を合唱組曲に作り上げた。これが〔合唱組曲『襟裳の森の物語』〕である。

 私は木内さんのことを以前から知っていたので,この組曲に興味を持った。そしてその作品をコンサートホールで披露する計画があると聞き,合唱団員のひとりとして名乗りを上げたのだ。コンサートの題名は【日本のうたごえ祭典in札幌】,会場は北海道が誇るコンサートホール〔札幌コンサートホールKitara〕であった。

 練習は約1年に及んだ。合唱団員が歌っていく過程で,作品はどんどん書き換えられていった。それに対応する練習用の指揮者とピアノ伴奏者。みんな真剣だった。みんな,この作品を作曲家任せにせず,自分たちの力も合わせて完成させ,早く世に出したくて仕方なかったのだ。


 【日本のうたごえ祭典in札幌】のステージは,北海道の素晴らしさを全面に押し出したものとなった。炭鉱労働の様子を描く歌,北海道を題材にした歌謡曲を合唱アレンジで歌ったもの,札幌が全国に誇る〔Yosakoiソーラン〕の披露(基本的にKitaraでは認められていないはずなのだが,粘り強い交渉で実現できたという)など,北海道に暮らす人たちの息吹を充分に感じさせるステージとなった。

 そしていよいよメイン曲,〔合唱組曲『襟裳の森の物語』〕が始まる。司会者が楽曲の説明をしているステージに,四部に分かれた合唱団が静かに入場する。私も緊張しながら,自分のポジションについた。最後にピアノ伴奏者を伴い,木内宏治氏が登場すると,会場は大きな拍手に包まれた。にこりともせず軽く会釈をする木内氏に,彼のなみなみならぬ決意を感じた。普段の彼からは想像できない,厳しいオーラが周囲に向けて発せられていた。

 組曲は,語り部の言葉から始まった。それに続き,合唱団全員によるムックリ(アイヌ民族の奏した楽器)の演奏。それに合わせてピアノ伴奏が入ってくる。いよいよ合唱が始まる。


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