【第九話】『旅の洗礼』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜

2 / 10 ページ

前話: 【第八話】『旅人になった日』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜
次話: 【第10話】『ゴールは決めない』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜

宿を出て、出発する。


2日目のゴールは、石和温泉。


前の年に社員旅行で訪れた町。


そこまで歩いて行ったなんて言ったら、

会社の人たちに話すネタになるし、

温泉街だし、きっと宿にも困らない。


「今日も長い道のりになるな。」


さて、出発しよう!





しかしこの日、2日目にして、命の危険に晒されることになる…。



台風接近中…



前の日、Facebookで近況を報告したところ、


「ひーくん、台風近付いてるから本当気を付けて!」


とコメントをもらっていた。



「台風か…」

「やっかいだな…」



雨の中を歩くのは、身体が濡れるし、視界も悪い。

風が強ければ、身体が煽られて危険だ。



しかし、止まってなんていられない。


僕は限界を探しに来たんだ。


危険を回避する旅なんて、僕が求めている旅じゃない。


危険に向かっていくのが、僕の求めている旅だ。



「台風でも何でも来やがれ!こんちくしょー!」



くらいの気持ちでいた。



いや、正直、結構ビビっていた…。



しかし、朝起きると、雨は降っていなかった。


前から晴れ男だと思っていたが、それが確信に変わった。


台風をも吹き飛ばす男、坂内秀洋!



僕は余裕綽々で歩き出した。



が、



間もなくして、やはり雨は降りだした。


僕の確信は1時間と保たずに打ち砕かれた…。


雨具を着て、ザックにカバーをして、雨の中を歩き出す。


帽子の上からフードを被り、視界は30㎝程、

顔ごと左右に振らなければ周囲は見渡せない。


完全に怪しい人物だ。


しかし、市街地を抜けたその道のりは、周囲に何もなく、誰一人いなかった。



フードに当たる雨の音が、脳の中に響き渡っていた。


雨の中を歩くのは、孤独を引き立たさせる。


時折、雨に打たれながら歩く自分の姿が頭の中で客観的に見え、とても寂しかった。


やはり、僕は独りぼっちなんだ…。


自分で決めた選択。


誰のせいにも出来ない。


自分との闘い。


自分の弱さとの闘い。


雨の中、誰にも頼れぬ孤独感との闘いに旅の洗礼を受けた。





僕は気を紛らわすため、イヤホンを耳に着け、音楽を聴いた。


出発前に作ったお気に入りのプレイリストを聴いて歩いた。


音楽は不思議だ。


現状は何一つ変わっていないのに、

独りじゃない気がする。


雨音ではなく、人の声が聴こえるだけで安心した。


何もない景色も、音楽があれば、

記憶に残るような景色に変わっていった。

著者の坂内 秀洋さんに人生相談を申込む

著者の坂内 秀洋さんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。