真っ黒なザリガニーいじめの中で粛々と

著者: 大西 明美

放課後、泣きながら絵の具まみれに


「こんなところに、足なんて生えていないでしょう!」

先生は、大きな声でどなった。

私は散らばった絵の具を目に涙をためながら見ていた。

時計は午後3時を過ぎていた。クラスメイトは2時すぎに帰っている。

ひとことで言うと、居残りだ。しかも私だけ。


授業参観までに飾るザリガニの絵が私だけできなかった。ダンゴムシに毛が生えたような仕上がりになっていた。これが先生の逆鱗にふれた。


「私が、あなたにいじわるをしてザリガニの絵を教えていないみたいじゃない?

 ちゃんと正確に書きなさいよ! 授業参観でお母さんたちが見るのよ?」


私はくるっと後ろを振り向いた。すると、クラスメイトの絵が紺色の台紙に貼られて飾られている。

それをボーッと見ていたら、バチン!!!私の頬を先生が打った。

「よそ見をしないで書きなさい!」


慌てて筆をとったら、今度は水入れを押してしまい、バシャーっと床にこぼしてしまった。

「先生は手を貸しませんからね。これはあなたの責任です。早く拭きなさい!」

私は廊下に走っていって、雑巾を持ってきて、ゴシゴシと床をこすった。

手はカラフルな色をしていた。緑や赤や黄色や・・・。


でも、いっぱい色々な色を混ぜすぎて、ザリガニはすっかり真っ黒になっていた。

もうこれ以上やってもダンゴムシにしかならないだろう。


突然、ザリガニの絵は「合格」に


午後3時30分を過ぎた後、先生は描いている途中の私の絵をとりあげた。

いきなりだったため、筆がびちゃーっと画用紙をつたって、変な線ができている。

「もう、これでいいわ」先生は、投げやりに言った。


「え、本当に合格ですかっ」私はパッと目を輝かせた。これ以上何しても画用紙が剥げていくだけだと絶望していたところを救われた。

それに、どう描いたらいいのか。

足がどこにあるかなんてわからない。だってザリガニも目の前にないんだもの。

放課後の絵は、ザリガニ無しでやれと言われていたので、思い出しながら一生懸命描いていたのだ。


しかし、その次の瞬間、目の前が真っ暗になった。

私の台紙だけ、みんなの台紙とちがった。

「あなたの絵だけはね、本当の合格じゃないの。だからね少し違う色の台紙を使わせてもらうわね」


私の絵は、はしの手すりのそばにひっそりと展示された。みんな紺色の台紙なのに私のだけ紫色だった。


「また、みんなと違う。なんで私はみんなと違うんだろう」

真っ暗な気持ちで、家に帰った。

面白いやん!

教室ではいつものようにクラスメイトから、「馬鹿あけみは、こんな絵しか描けないんだ」とからかわれていたけど、こんなことは慣れっこだ。

今風に言えば「想定内」 悲しいけど、今の現実は変えられないから甘んじてからかいを受けた。


でも、ひとつだけどうしてもどうしても神様に叶えて欲しい願いがあった。

それは、母親が私の絵で恥をかかないことだった。

ダンゴムシみたいなザリガニの絵の下に、私の名前が書かれている。お母さんは悲しむから、見つけてほしくないと、神様に祈った。


授業参観の日。私の絵は片隅にひっそりと展示されていたため、思っていたほど目立たなかった。

それに、授業参観の日は、一生懸命手を上げた。先生から当てられることはないけど、ザリガニの絵を見てほしくないから、一生懸命頑張って手をあげた。

そのおかげなのか、母は私のザリガニの絵について食卓の話題にすることはなかった。


しかし、1学期が終わり、ザリガニの絵を家に持って帰る日がやってきた。私は相当「馬鹿の絵だ」とずーっとクラスメイトにからかわれた。小さくなりながら、絵をくるくると巻いて、輪ゴムでとめた。

帰り道に捨てて帰りたかったけど、名前が書いてある。「拾いました」と持ってこられるほうが恥ずかしい。


家には、父と母がいた。通信簿よりも、絵を見せる勇気のほうが100倍必要だった。

二人に思い切ってえいっとくるくるまいた絵をわたした。


二人は、顔を見合わせて笑った。

「面白いなー、これはザリガニじゃないなー」と。

でも、そのあと、続いた言葉を一生忘れない。

「一生懸命書いたんやから、これでいいやないの。面白いし」


私は、このように不器用なこともあり、いろんないじめに合ってきた。

先生から嫌がらせをうけることもあった。

でも、父と母は、一生懸命頑張っているけれども、結果が全然出ない娘だということを

受け入れてくれていた。本当にいつも受け入れてくれていた。


この後10年近くいじめられる生活をおくるんだけれども、

多分、認めてくれる、愛してくれる家族の中で少しずつ私のココロを強くしてくれたんだと思う。




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