友達が自殺未遂しました、たかが婚活で。~エピローグ 完結編~

2 / 4 ページ

前話: 友達が自殺未遂しました、たかが婚活で。〜後編〜
次話: 間違いだらけの婚活 〜 オトコとオンナの無意味すぎる1時間半〜

横浜だと聞いている。

奈々子も 彼には、リリカと名乗り都内に住んでいると伝えた。

リリカは、短大時代のクラスメートの名前だ。

別段仲が良かったわけではない。

クラスで1番可愛く人気者のリリカとは、あまり接点がなかった。

奈々子は、本当は彼女と友達になりたかったし

彼女のようになりたかった。

その証拠に10年以上たった今でも彼女の名前を忘れていなかった。


奈々子はユタカからのメールに目を通した。




リリカさん


昨日は気温が急に下がって冬みたいだったね。

リリカさんも、くれぐれも風邪を引かないようにね。


ところで不思議に思います。

こうやっていつも他愛のない話ばかりしているのに

あなたのことが、まるで昔から知っている人のように

感じられるんだ。何故だかわからないけど。

顔さえ知らないのに、あなたの書き綴った文字を見ていると

まるでそこにあなたがいて、どこか静かな場所で語り合っているかのように思う。


お恥ずかしい話ですが、僕は出会いを求めてこの何年か

婚活パーティーに足を運んだり、お見合いも何回かしました。

でも、いくら会話をしても、その子のことが何1つよく

分からず、通じ合うものもないままだった。

中には綺麗な子や愛想の良い子もいたんだけど。

もちろん、僕はモテるタイプじゃないので

相手の女性も、それほど僕に興味はなさそうだった。

愛想の良い子も僕の年収を聞いた途端

さりげなく席を立ち、別の男性の元へと去って行ったよ。

どうやら彼女のお目当ては僕の年収じゃお話にならなかったようで…

あ、ごめん。このサイトは双方の同意がないと

収入のことも話してはいけないんだったね。失礼しました。

話が逸れましたが、あなたとは初めて心が何かを感じたんです。

あなたは、婚活を始めてから人に対して壁を作り

イライラするようになったと言ったね。

でもそれは、あなたのせいなんかじゃない。

人は、自分の力ではどうにもならないことに翻弄される時があるんだよ。

そして素直に自分の非を悔やむあなたは正直で

心の美しい人だと思うよ。

リリカさん

よかったら正式に開示申請しても構いませんか?

僕は、あなたの何を聞いても驚かないし気持ちが変わることはない。

むしろあなたが僕にがっかりしないか、ずっと怖れてきたんだ。

でも、今はあなたのことをもっと知りたい気持ちが勝ってしまった。

ご検討いただければ幸いです。




奈々子の胸の中がカッと熱くなった。

そして、体が震えた。

どうしよう…こんな展開になるなんて


開示申請とは《心とココロのマッチングサイト》上で

心と心のすり合わせをした結果、相手と合意の上

相手に写真や経歴など条件的な情報を

開示することを本部の申請することだ。

サイト管理本部では双方の身分証や身の上の資料など管理している。

申請すると本部からメールで相手の情報が送られてくる。

それを見て、それぞれが会いたいと思えば初のご対面となる。


嬉しい気持ちもあったが、その何倍も不安が奈々子を襲った。


怖かった。

彼を知るのも…素性の知れない架空に近い存在から

急に生身の男性として意識するのが


それ以上に怖いのは、私を知ったら彼がどう思うかだ。

容姿にコンプレックスがあるわけじゃない。

でも、写真の印象だけでこれまで多くの男性に断れてきたのだ。


奈々子にとって、心が通い合い自分に好感を持ってくれている

ユタカに自分をさらけ出すことはとても勇気のいることだ。


少し待って欲しいと返事をすると


ユタカは、いつも通りの穏やかな言葉で

焦ることないよ。リリカさんの心の準備ができるまで

気長に待ちますと返事してきた。

奈々子はその優しさが嬉しかった。



その当時、奈々子は会社を休みがちになっていた。

そろそろ派遣の規約も切れる頃だった。

どんどん、未来が見えなくなっていた。

結婚相談所は、あの一件以来、カウンセラー面談を申し込んでも

予約でいっぱいだと断ってくる。

その代わり、奈々子がまた襲撃でもしに来ないか怖れたのか

ごくたまにだがオススメ会員をメールで送ってくるようになった。

ただ、奈々子は簡単に会いたいとは思えなかった。


ユタカは、あれ以来開示申請について何も言わなかった。

その気遣いもまたユタカの人柄のせいだろうと思った。


奈々子は相談所からにメールを先に開いた。

3人の男性の写真付きプロフイールがあった。


ただ、奈々子はその3人には何も感じるものがなく見送ることにした。

ふと、1番パッとしない男性の顔写真を見つめた。


もし…これがユタカだったら…?


写真の中の男性は黒縁メガネに大きな鼻が特徴だった。

不思議とさっき何も感じなかった顔に愛着が湧いてきた。


この人がユタカなら、私、彼に会う。


そうなんだ。何も感じないのは、その人の心が見えないからだ。


おそらく、今まで私に会わなかった男性たちも

私を見て何も感じなかっただろう。

初めから心が通い合っていれば

私は、その人の写真を見て感じることができるんだ。


著者のYoshida Maikoさんに人生相談を申込む

著者のYoshida Maikoさんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。