27年前の初恋の思い出をネットの海に流すことに決めた

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著者: A. O.


あれは確か1990年頃、僕は小学4年生ぐらいだったと思う。


放課後も休日も、いつも校庭や公園で体を動かして遊んでいたようなアクティヴな子どもだった。


そんなある休みの日、僕はクラスメイトのナガサワたち3人と近所の公園で遊んでいた。


小学校近くの団地の中にある、図書館の向かいの落ち着いた公園だ。


いつも通り全力で鬼ごっこしていると、ナガサワたちが知らない人に話しかけられていた。


よく見たら、相手は高校生ぐらいのお姉さんたち2人だった。


「ねぇ、君たちこの近くの小学生?」


「そうだよ、すぐそこの小平四小」


ふと髪の長いほうのお姉さんと目が合った。



とてもきれいなひとだったので、すごくドキッとしたのを覚えている。


「お姉さんたちは? 何してるの?」


「私たちもせっかく良い天気だからここに来たんだけど、君たちすっごく楽しそうだったから、よかったらまぜてくれない?」


「うん、いいよ!」


子どもなんて簡単なもので、楽しそうだと思ったら何の問題もない。


僕たちはあっという間にお姉さんたちと仲良くなった。


お姉さんの一人はさっき僕が目の合った長い黒髪のとってもきれいなひとで、もう一人はショートカットで活発な感じのよくゲラゲラ笑う明るいひとだった。


長い髪のお姉さんが


「きみ、名前は?」


と、聞いてきたので僕は


「アユムだよ」


と答えた。すると


「じゃあアユムくん、ちょっと自転車の後ろに乗せてくれない?」


お姉さんがにこっと微笑んだ。


「え、い、いいけど……」


僕はちょっとたじろいでしまったんだけれど、たぶんそれは『え、僕がこぐの!?』と思ったのと、お姉さんの笑顔が人生で見た中で一番かわいかったのと、両方だったと思う。


ショートカットのほうのお姉さんはナガサワの自転車に乗って、僕たちは全力で公園中を走り回った。


もちろんこいでる僕たちは必死だったんだけれど、後ろのお姉さんたちは楽しんでくれたみたいだった。


喜んでもらえて良かった、と思った。


「あっつーい!」


ナガサワが自転車を停めて叫んだ。こんな晴れた暑い日に全力で自転車をこいだんだから当然だ。


僕も暑かった。


「あはは、ありがとう。じゃあちょっと図書館で休もうか」


長い髪のお姉さんが言った。


「ほら、ナガサワくん行くぞ」


ショートカットのお姉さんもナガサワを捕まえて面白そうに言った。


「あつーい! くっつくなー!」


またナガサワが叫んだ。


この2人もいつの間にかすっかり良いコンビになっていたみたいでおかしかった。


みんなで遊んだり話したり笑ったり、本当に楽しかった。




公園と図書館の間の道路を渡った時、長い髪のお姉さんが何かに気付いて少し遠くのほうを見つめていた。


その視線の先には、お姉さんと同じぐらいの年の男の人が制服姿で自転車にまたがって立ち止まっていた。


「お姉さんのお友だち?」


と僕は聞いてみたんだけれど、その質問には答えなかった。


「ねぇアユムくん、あの男の子かっこいいと思わない?」


と、お姉さんが逆に聞いてきたので


「え!?、うん、かっこいいと思うよ」


と答えた。

正直なところ、その男の人の顔までははっきりと分からなかったんだけれど。

でもその人の雰囲気というか、自分よりずっと年上のお兄さんのかっこよさみたいなものを感じることは出来た。


「そうだよね、かっこいいよね! 今度彼にもそう伝えておくね!」


お姉さんはとっても嬉しそうな顔をして、その男の人に向かって「またね!」と大きく手を振った。


そんな嬉しそうなお姉さんの横顔を見て、きっとあのお兄さんともっと仲良くなりたいのかな、とかそんな風に考えた。


その時の僕は、恋とか愛とかそんなものまるで関係のないことだった。


ただ、その想い深げな横顔が忘れられなかった。




そのあとみんなで図書館に入り、ベンチに座ると僕たちは色んなことをおしゃべりした。


正直どんなことを話したのかちょっと覚えていないんだけれど、多分学校のこととか家のこととか好きなこととか、たわいのない話をしていたんだと思う。


唯一覚えている会話といえば……


「ねぇ、アユムくん”ナポレオンの影”って、知ってる?」


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