(1)バンド で成功する方法、知りたいですか?【第1話】 原宿歩行者天国

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声がつぶれて。「どうしよう」と思ったけど、とり合えず歌うしかない。他に歌ってくれる奴はいない。1人1人、自分のことで精一杯だから。持ち場を死守、みたいな。


無理して声を出そうとするんだけど、「ハー」ってかすれて、声にならないの。しょうがない。ノドに負担をかけないように。ノドを広げて、炎症を起こした箇所に触れないように空気を出す。


実はこれが腹式呼吸の基礎なんだよ。長く息を吐く、発声の練習の意味がやっとわかった。最初はハッキリした声にならないから、心もとないんだけどね。


それから、毎週ストリートで演奏して帰ってくると、腹が痛い。「どうしたんだろう?」と思ってたんだけど、ある日気づいた。


「アッ、ずっと歌ってたからだ。そうか、腹から声を出すってこういうことなのか!」




発見だよ。

人間の体って、まるで大きな袋。長いチューブ。腹の袋から、いっぱいに詰まった空気を長いチューブに向かってしぼり出すんだ。声を出すって、歌うって、そういうことなんだよ。それが理解できてから、ねばりのある、太い声が出るようになってきた。


レパートリーは5曲しかなかったけど、1日3ステージ。曲の順番を変えながら、さも新曲のようなフリをして切り抜けてたの。冷汗ものだ。


「あっ、あの子、又来てるよ」


トモコ チビ太が気づいたのかな? 気弱そうな少年が、次のステージも見に戻ってきてくれたんだ。


「あっ、また来てる」


「ほんとだァ。うれしいね」


何度も来る常連になってくれたの。常連第1号。そのうち皆が気にして、その少年を捜すようになってきた。


「きてる。きてる。」


「ホントだ。また、こぶし 握ってるよ」



オレがシャウトしながら、客に言ったんだよ。


「イェーイ。ノッてるかい? 恥ずかしかったら、別に無理しなくていいからさァ。でも 楽しいと思ったら、“心の中”だけでも そっと こぶしを振り上げてくれよなーッ!」


そしたらね、少年が反応してくれたんだ。大人しい子だよ。シャイな少年。でも彼、精一杯自分の心と戦ってくれた。


両方の手を“ぎゅっ”と握りしめて、その手を振り上げるんじゃなくて、下にね。突き下ろしてた。曲に合わせてずっと。体が小刻みにゆれて、顔はぎゅっと口を結んで、紅潮している。表情は乏しいけど、充分楽しんでくれてるのが解るよ。


「こぶし少年」


オレ達は、彼に敬愛を込めてそう呼んでいた。


「ジーニアス」を認めてくれた、はじめてのファンだからね。うれしくて いつも彼の姿を捜していたんだ。




= つづく =



★原宿ストリート・ライブ決行当初


はじめのころは、あまりお客さんもいなかった。


それでも路上に座り、Genius の演奏を聴いてくれる人たちが少しずつ増えていった。。写真はリード・ギターのマコト・クレイジーと、キーボードのヤスコ・クイーン。Live演奏が終わったばかりで、奥の客は興奮がおさまらず立ち上がって咆哮している。徐々にそういう客が増えていく☆


左奥に見えるのが、ボクらを「専属バンド(笑 」にしたテキ屋のおじさんの屋台。喧嘩っ早いおじさんで、

しょっちゅう誰かとトラブルを起こしてましたよww




時代背景


この物語の背景は、1980年代の半ばーー


足音をしのばせてバブル景気が静かに近づいていた頃だ。戦後の高度成長期の総決算ともいうべき急上昇の好景気が、もうすぐそこまで近づいていて、誰もが心なしか明るかった。バブル真っ只中の下品な豪華さはないけれど日本の未来を信じられた。音楽的には、それまでロックの主流だった洋楽を抑えて、BOØWY がブレイクのきざしを見せ始めていたし、その後に続くブルーハーツやらビジュアルバンド勢がインディー・シーンから飛び出し始めていた。タテノリ・バンドはまだ台頭しておらず、音楽のノリは「たて」ではなく「横ノリ」が主流であった。太い眉毛でジュリアナのお立ち台で踊る女性が急増していた。


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