死なないよ、死ぬまでは。

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もちろん

両親にだって死は訪れる。

死ぬと、いなくなる。

もうそこに、存在しなくなる。

死というのは、そういうものなんだ。

死ぬっていうのは、そういうことなんだよ!

祖父の死を体験し、死というものがさらに私の身近にすり寄ってきた。背後から忍びよってきて、私の精神を根元からこそぎとってしまうかのごとく。

そこに何が残る?

投じ終えた身はどこに捧げる?

自殺なんて、誰がしようとしたんだ?

勝手にどこへ行こうとしていたんだ?

何もかもを捨てさって、

悲しみだけ置き土産にしていこうとしていたのは

どこのどいつだ?

そんなやつ死ねばいい。

死なずに死ねばいい。

生きながら

謝りながら

死ねばいい。

両親が悲しまないなら、死ねばいい。

障碍者になっても、

足が動かなくても、

上手く笑えなくても、

問題ばかり抱えてても、

迷惑しかかけてなくても、

大切に、

捨てずに、

懸命に、

どんな時でも、

味方で、

前向きに、

支えてくれた、

育ててくれた、

心配してくれた、

そんな、

両親を、

たった二人の、

両親を、

存外に、

後腐れ無く、

傷つけることができるのなら、

裏切ることができるのなら、

死ねばいい。

思う存分、盛大に揺るがない意思を持って自殺すればいい。

君の意思はもうそこには無くなるのだから。

関係ないだろ?

仕事の関係で広島に転勤することになった。

広島にも支店があり、そこが人員不足で常に困っていたから適任な人物が私しかいなかったのだ。仕事が忙しすぎて新人を育て上げる余裕もなく、即戦力となる人員として私はその話を了承した。私には特に何もこだわりがないが、知らない地に居住することになるのは不安でもあり楽しみにも思えた。それに親が子離れをしてくれるのではないかという期待もあった。

親に広島へ転勤することになったと報告した時、開幕一番で口からでたのは「ダメ!」という一言だった。

福岡の支店で働いていた頃から、会社まで徒歩五分なのに雨が降っていると「会社に遅れていきなさい」とメールしてくるような親なのだ。その反応も予想できていたが、それを押し切って転勤した。

広島という新たな土地で仕事に取り組むとリフレッシュされたかのようで、転勤も気分転換にいいな、なんてのんきなことを考えていた。前から多少は付き合いがあったので広島支店の人ともすぐに仲良くなれた。

気になるのは福岡に比べて飲食店の前に段差が多く、一人では入れないこと。それとやたらと「博多」を語りたがるラーメン屋が多かったくらい。味はご割愛。

新しい住居は会社まで徒歩15分にはなったが駅に近いのでスーパーやコンビニが多く、利便性は高い。仕事が遅くなった日には半額弁当や惣菜を狙って、よくスーパーに通った。結局、広島で一番美味しく食べたものはお好み焼きでも牡蠣でもなく、半額になったカツ丼だった。安くても高くても、私が美味しいと思えばそれが美食なのだ。判定基準なんて曖昧で移ろいやすい。

もともと休日は引きこもってゲームしたり、読書したりしているだけなので特に困ることはないのだが、唯一の友達である松村さえも福岡に置いてきたので友達と呼べる人がここにはいない。かといってSNSのコミュニティに入って活動する気もないし、お酒が好きでもないのでバーに行って飲み友達を作ることもなく、ひたすら一人を楽しんだ。転勤して浮かれていたのか一人焼き肉も、一人カラオケも経験した。気を使わないって、いい。一人は楽だ。

トイレの心配があるのでそんなに出歩くことはないけれど、自分で稼いだお金を自由に使えるということが身に染みる。お金というものの実感があまりなく、ジュースを買うことさえ気がひけていた私はどこへ行ったのやら。そうやって鈍くなって老化していくのだ。

福岡の頃に比べて親がしょっちゅう様子を見に来ることはなかった。それでも2〜3ヶ月に一回は広島のマンションを訪れた。以前の件があるため自分がとやかく言っても無駄だろうなと思い、それならば広島で何泊かしていけば?と提案するのだが、次の日仕事だからと日帰りする。絶対に。

私の様子を見て、手の回せていない部分の掃除などをすると昼食を食べてその日に帰る。

実家から片道約三時間ぐらいかけて、そのためだけに広島にやってくる。

観光なんて一切しない。

金額的にも二人分あわせると交通費だけで毎回5万くらいかかるし、体力的にも60中盤なのでしんどいだろう。

それでも私を心配して、様子を見に来るだけに、広島へ来る。

さすがに私も広島に長くいることはできないなと思った。

私が断っても、

嫌がっても、

どんなに突き放しても、

二人は心配して、

広島にやってくるだろう。

こんなしょうもない

特に面白みもない

私の様子を見るためだけに。

たったそれだけのために。

福岡に愛着があるわけではないけど、近いうちに両親のいる福岡へ帰ろうと誓った。

それが二人に対する礼儀だ。

言葉では伝えない。

私の勝手な解釈だから。

お盆休みで久々に福岡の実家に帰った時、松村と飲む約束をした。

何故か唐突に彼女を連れて来た松村は、私に紹介した。そういえば久しくエッチもしてないな、と失礼ながら考えた。人と接するのがあまり好きではないので、性欲を満たすために風俗なんかにも行きたくないタイプなのだ。どれくらいしてないだろう。数少ない体験が思い起こされる。

大衆居酒屋に入って三人で席にすわる。

久しぶりに会ったことで近況を報告しあったり学生の頃の昔話をしていたりと会話は弾んだ。彼女も品のある子で、元AKBの大島優子に似ていた。

松村から聞いた話によると同じく専門学校に通っていた同窓生が亡くなっていた。

私はDTP分野にいたためあまり関わりがなく親しくもなかったのだが、Web分野にいた女の子だった。

自殺らしい。

会社が辛く、自殺したんだと。

詳しくは知らないが私の知る限りでは、思ったことはズバッと言う正義感の強い子だった。正義感が強いというのは、わがままがひどいということでもある。自分の信じる正義が必ずしも正しいということはない。それを履き違えると大変なことになる。自分の思う通りにならないと我慢ならなかったのではないだろうか。

それで会社に反発して、行動が裏目にでて、ストレスが降り積もり、耐えられなくなって、自殺を選択してしまったのではないのかと、憶測だけで理由を詮索した。

松村は近々、他の同窓生といっしょに線香をあげにいくけど、伊藤はどうする?と聞いてくる。

私は答える。

「なんで、自殺したやつの家に線香あげにいかなきゃいけないの?」

彼の目には私がひどく冷たいやつに映ったかもしれない。

だが私は間違ったことを言っているつもりはない。冷静にそう思う。

自殺したやつのために線香をあげて何になる。

そいつは、最低の親不孝をしているんだ。

事故でもない、病気でもない、殺人でもない。

自ら死を選んだんだ。

育ててくれた親を残して死んだんだ!

そんなやつの、

自ら死を選んだやつの死を悼まれるか!

なに勝手に死んでんだ!

親を悲しませるな!

こんな私でも生きてるんだぞ!

障害を持って、初めから人生に悲観していた私でも生きてるんだ!

トイレのことでは未だに悩みはつきないけど生きてる!

不自由なことは多いままだけど生きている!

歩けないままだけど、それでも生きている!

ふざけんなよ!

親を悲しませるんじゃない!

お前はお前のことを大切に思っていなくても

親はお前のことを大切に思っているんだ!

どんなに不出来な子供でも

親はお前が死んだら悲しいんだよ!

その親を悲しませることを

自ら選ぶなんて絶対にやるな!

ふざけんな!!!

自殺なんて、していいわけあるか!

親が納得できるわけないだろ!

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