【4話/真っ向勝負】母親の凶報から人生を見つめ直し、日本版マイケル・ジョーダンを発掘する男、佐藤さん。

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無意識・無計画・安定志向

日を改めて、佐藤さんと会うことになった。今の佐藤さんからは到底想像もつかない「無意識・無計画・安定志向」だった、当時の過去を掘り起こすためだった。


私の知る佐藤さんの行動には、とにかく論理が必ず内在する。今回の取材場所も、居酒屋の個室だったが、やはりビールを注文した。実は必ずビールを注文するのも、好き嫌いを超えた理由がある。


「アメリカの留学時代、何も主張できなくて。英語もそこまで話せないし、とにかくね、周りのテンションに一切ついていけなかった」


後述するが、佐藤さんは2012年から2013年まで、2年間アメリカの大学に留学している。留学と聞けば大層な野望を持っている若者を想像するが、佐藤さんからすると特に動機はなかったようだ。


「でも、すげぇお酒飲んだ時があって、その時に気持が高揚して、何でもできるって分かったんだよね」発する言葉に自信が満ちている。なんでも出来る、それが何か、聞いて欲しいと言っているようにも思える。

「何でもできるっていうのは?」

「例えば、女の子と肩組んだり、激しいダンスしたり、適当に口説いてみたりとか」大したことは、無かった。しかし、それは重要ではない。

「それで、やっぱりお酒の中ではビールなの?」

「その時飲んだのもビールだったし、ビールが一番美味くて、高めるんだよ気持を。炭酸が」


佐藤さん曰く、ビールを飲むことは自分を高める手段として有効で、自分の弱さや隠したい部分を手っ取り早く開放できるのだという。酒の力を瞬間的に借りる人はいる。しかし佐藤さんほど、それを隠さずあっけからんに語ってくれる人は珍しい。それを語ることは、ビールに頼らないと自分を出せない人間だと告白することと同義だから、大抵の人は進んで話すことはない。


それでも佐藤さんが、躊躇なくさらけ出すには、理論として自分で納得しているからだ。佐藤さんは何よりも理論を重視する。頭の中に常に何かの公式がある。その公式を使って立ち振舞を柔軟に変化させる。こんなにも理論を重視する佐藤さんが、いつ「無意識・無計画・安定志向」になったのか。


年を重ねる毎に、真っ向勝負から遠ざかる

「今から相撲をします。取組の前には、一定の練習時間を設けます。相手の実力は回を重ねるごとに高くなりますが、突然横綱と対戦しろとは言いません。決まり手に制限はありません」


これは、「無意識・無計画・安定志向」だった頃の、佐藤さんの姿だ。


しかし、これは普通だ。


自分の想定していること以外に直面すると、人は億劫になる。そして、それをそれとなく躱すことはできても、なかなか正面からぶつかり合うことはできない。


「今から相撲をします。はい、今すぐです。相手の実力ですか。大関と横綱と取組できるなんて滅多にないですよ。どうせなら真っ向勝負でしょう。変化なんて使っては駄目です。負けたら?そうですね、土俵から外は暗くてよく見えませんが、地獄のような世界だと聞いています。え?問題無い?そうですか。お気をつけて」


このように、どこに進むか分からない列車に好んで乗り込む人は、おそらく根っからの冒険家気質の人が多い。


まず、対戦相手の実力がランダムであり、初めからハイレベルの戦いを要されることに進んで挑む。好戦的だ。


足元の自分の盤石が整っていないことは気にしない。


いずれは高みに上り詰めることを前提に、まずは実行して足場の感触を確かめる。そして、目的を実現するためには自らの気持にも嘘は付かない。


考えを躱すことも無く、否認をしない。さらに、お先真っ暗になる状況下であっても、何とかなるだろうという楽観性がある。彼らにとっては、そういった逆境すらも快感を与える好機となる。


これは、小学生までの佐藤さんの姿だ。


小学生までは冒険家だった。本能でズンズンと突き進んでいた。というよりもむしろ、小学生という年齢が、そうさせていたのかもしれない。小難しいことを考えずに、走り続ける。どこか少し不安な面を抱きながらも、狭い世界の自分の位置を俯瞰する機会も無いまま「勢い」で走り抜ける。


佐藤さんも、頭を悩ませる出来事こそあれど、やはり冒険者としての気質を持ちながら、小学校生活を過ごしていたようだった。

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西嶋 タクロウ

オウンドメディアでノンフィクションを執筆しています。「人々の生活から社会を覗いてみよう」というコンセプトで、書いた内容に対して興味関心を持って頂ければ幸いです。

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