口下手童貞少年、ナンバーワンホストになる ⑪ 刹那のNo. 1編

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著者: 健二 井出

10月の前期(15日締)も残り少なくなった日の営業中の事だった。


K野専務「K君、キャッシャーまで。」


(誰だろ?今から店に行くよっていう電話だったらいいけど・・。)


通話中の所にはYの名前が出ていた。


私「もしもし?どうした?」


Y「今から店行くよ。空いてる。」


私「空いてるけど、いいよ来なくて…」


Y「じゃあ1時間ぐらいで行くから。」


そう言われ、一方的に電話を切られた。


(珍しいな……どうしたんだろ?)


私は、仕事用のネクタイやYシャツ、スーツ、靴、時計……

仕事関係全般の物を全部Yが買ってくれたという事もあり、

Yを店に来させないようにしていた。


ただでさえヒモ状態なのに、店の売り上げまで頼る訳にはいかなかったからだ。


一時間経たないぐらいでYは店に到着した。

店の中へ案内し、


私「いきなりどうしたの?」


Y「売上どうなの?」


私「………。

いや、あんまり上がってない。」


Y「じゃあナンバー1には?」


私「とてもじゃないけど……

やっぱり無理だよ……。」


Y「そうなんだ……。

じゃあ別れるつもりなの?」


私「いや、別れたくないよ……。

だけどナンバー1は無理だ。

締日まで残り少ないし……。」


Y「……今ある一番高い酒って何?」


私「はっ!?」


Y「だから、今店にある一番高い酒何って聞いてんの。」


私「何言ってんの!?」


Y「まぁいいや、ねぇNちゃん。

今ある一番高いお酒持ってきて。」


N「………いいのか?K。」


私「いや、持ってきてもらわなくていいです。」


Y「Nちゃん、Kの言う事聞かなくていいから。早く持ってきて。」


N「Yちゃん、本当にいいの?」


Y「いいって言ってるでしょ?早く。」


そしてNさんがカウンターの方へと歩いて行った。

K野専務と話しているのが見えた。


その時に、Bにあった一番高いお酒は、リシャール・ヘネシーといい、

Bでおろすと値段は100万円だった。


ホストに置いてあるお酒などは、売上を上げる為に置いてある酒が大半だ。

味ではなく、100万円の売上を上げる時のために置いてあるだけのお酒……

それなりの見栄えとそれなりの原価であればなんでも良かったのだろう。


味など20歳の小僧に分かるわけがない……。


100万円の酒が席に運ばれてきた。


私「何やってんの!?」


Y「こうでもしないとあんたが何時まで経ってもナンバー1になれないからじゃん。

Nちゃん今月の前期でナンバー1になる為にはいくらぐらいなの?」


N「今のところ300万ぐらいだね。」


Y「ボトルメニュー見せて。」


私「………?!」



Yはそう言ってボトルメニューに目を通し始めた。

それからYは少し時間をおきながら、次々とお酒をおろしていった。


ルイ、ブック、

さらにもう一本リシャールを他の店に借りにも行った……。


茫然とする私。


Yと私が座っているテーブルの半分が、

本の形をしたお酒、

丸くホタテの様な柄をしたお酒・・・

様々な形のお酒のボトルで埋まった。


飲んだ事も、見た事も全く無いお酒ばかりだった。


その他にも、

ドンペリや赤ヘネと言われている

それらの中では、

比較的安いお酒などもいれたが、

何をどういれたかなどは、

私に把握しきれる量ではなかった。


目の前が真っ白とはこういう事なんだろう。

目の前の風景の現実味がない。

目はハッキリ開いているが、どこを見ていたのかもよく覚えていない。

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